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 その日も何でもない一日になるはずだった。
 最近の一ノ瀬トキヤは順調に仕事も増えていた。先日の事務所が主催した歌謡祭の成功で、ますます人気に拍車が掛かり、人気アイドルの一員と言っても過言ではない。
 人気に比例してスケジュール帳も黒く埋まり、オフの時間を見つけることが難しい。そのような状況で、その日の午後はようやくの休息だった。


「トキヤ!」
 事務所に寄った帰り道に、トキヤは偶然、同じ事務所のアイドルであるセシルと出会った。
 同時期にデビューしたセシルは、シャイニング事務所の同期の一人だ。
 どこからか早乙女がスカウトしてきた彼は、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。――言動も、かなりミステリアスだ。
 まだまだ日本語が不自由なこともあり、トキヤの恋人である音也も弟のように可愛がっているようだった。
 そうしてトキヤは、アグナパレスの王子でもあるセシルの音楽への造詣の深さに、一目置いていた。
「こんにちは」
「こんにちは」
 トキヤの挨拶にセシルが丁寧に応える。
「あなたも仕事帰りですか?」
 よく晴れた日の昼下がり。寮へ歩いて帰っていたトキヤは、セシルに尋ねた。
「いえ、これから撮影です」
 それを聞いたトキヤは、仕事を控えているセシルと長話をするわけにはいかないと思った。そのためトキヤが話を切り上げようとしたとき、車が急停止する音が響き渡った。
―――キッキー!
「―――え?」
 危機感を感じるほど、嫌な音だった。トキヤとセシルは驚いて振り向く。どこかで事故でも起こったのではと心配して周囲を見ると、車が路上で止まっている。
 事故ではなかったことに二人は安堵した。
 しかし車体をきちんと確認する前に、車は逃げるように走り去ってしまう。
 今のは何だったのかと二人が疑問に思った瞬間、セシルが叫び声を上げた。
「トキヤッ!!」
 遅れてトキヤも自身に起こったことを把握する。
『――え……』
 そこにあるはずの人影が、一つ無くなってしまっていた。セシルのものだけだ。けれどトキヤの意識はそこにある。
 トキヤは戸惑いの声を上げた。何が起こっているのか、理解が追いつかない。
「どこにいるっ?トキヤ!」
 頭上から聞こえた声に、トキヤはセシルを見上げた。
 そう。見上げたのだ。
 トキヤの目線は地面に近くなっていた。
「ニャア……(どういうことですか……)」
 トキヤは不安を隠せずに呟いたつもりだった。けれどその場に響いたのは弱々しい猫の鳴き声。
 それに反応したセシルが、足下に視線を向ける。
「子猫……」
 セシルの呟きに、トキヤは慌てて自分の体を確認する。
 トキヤの視界に入る手や、振り向いて確認した体は、まさしく子猫のものだった。
 それによって、現状をトキヤは把握する。
 間違いなく、トキヤは猫の姿になっていた。
「トキヤ?」
 セシルの問いは確信で満ちていた。
 それにトキヤは「ニャア(はい)」と応えながら頷いた。
「大変です!」
 顔色を青くしたセシルがトキヤを抱き上げて、一目散に走り出した。


(中略)

「ごちそうさま」
 トキヤと音也の夕食も終わり、食器が片付けられた。
「そー言えば」
 そう言って音也がテレビをつける。今日は先日シャイニング事務所の新人七人で出演した番組の放送日だった。
「よっと」
 音也がトキヤを抱きかかえて、テレビの前に陣取る。トキヤは音也の膝の上に、ちんまりと座り込んで音也と一緒にテレビを見た。
 聞こえてくる笑い声だったり、司会者の声をBGMにトキヤは映像を眺める。
 普段だったら、ここは良かった、あそこは悪かったと反省をしつつ視聴するのだが、今日はそんな気にもならない。
 またあそこに立てるのだろうか。トキヤの中に、そう言った漠然とした不安が湧いてくる。
 取り留めもなく考えていると、忘れ去っていた生理的欲求が突然湧いてきた。
「……」
 トキヤは眉間に皺を寄せて、音也の膝の上で身動ぎした。
 テレビの横に置かれている物に、自然と視線がいく。
 猫用のトイレ。湧き上がる欲求を解消するためには、そこに行くしかない。けれど、明るいリビングには音也がいる。そんなところで、する――のか。
 トキヤは逡巡した。
 しかし自覚した尿意は我慢出来ない。粗相するなど論外で、トキヤは音也の膝から飛び降りて、トイレに近づいた。
「トキヤ?」
 膝から降りたトキヤに疑問を投げかけた音也は、行き先を確認して訳知り顔で頷いた。
「あ、おしっこ?」
 その反応に、トキヤは心の中で盛大に音也を罵倒した。
 好きで付き合っているはずの恋人の、こういう無神経さがトキヤにとって信じられない。
「ニャア!(あっちに行ってください)」
 追い払うつもりで鳴いたのに、よりによって音也は近づいてくる。
「大丈夫?一人で出来る?」
「ニャ!!(そんな心配無用です)」
 真っ赤になって鳴くトキヤの言葉は、悲しいかな音也には伝わらない。
「はい」
 音也はわざわざトキヤを抱き上げて、トイレの中へ下ろしてくれた。
 心配そうに見守る音也に悪気がないのはわかっている。それでもトキヤにとってそれは拷問にも等しかった。
「ニャアニャアニャア(あっち行ってッ!)」
「大丈夫、俺が付いているよ」
 伝わらない言葉に埒もあかず、トキヤは苦渋の選択を強いられた。
 差し迫った尿意を我慢することは難しい。音也に向こうに行って欲しいと伝える手段も、今はない。
 それは極限状態だった。
 トキヤは欲求に負けた。体を縮こまらせて、そっと下半身の力を抜く。
 流れ出るそれに、トキヤは顔を上げられない。俯いて尿意が解消されるのをひたすら待った。
 終わって立ち上がったトキヤは、音也に背を向けて現場に砂を掛ける。今ほど元の姿に戻りたいと思ったことはない。こんな屈辱を味合わせた犯人には、相応の報復をする。そうトキヤは心に誓った。
「すっきりした?」
 急に音也に抱き上げられて、トキヤは驚いた。猫の姿になってから、音也はトキヤを気軽に抱き上げすぎる気がする。
 正面にある音也の顔を見られずに、トキヤは顔を赤らめながら視線を反らせた。
「あ〜〜汚れちゃってる」
 トキヤの脚には砂が付いていた。
 上手く排泄が出来なかった証拠のような気がして、トキヤはますます羞恥を感じてしまう。
「よし、お風呂に入っちゃおう」
 その羞恥に音也が気が付くことはなかったが。


(中略)

 どちらからともなく、吐息が漏れた。
 トキヤは音也が舌で唇をノックするのに、うっすらと自分の口を開ける。
 二人の唇が隙間なく重なる。
「……はぁ」
 トキヤの口内へ音也の舌が入ってくる。それに舌を絡めて、トキヤは音也の首へ腕を回す。
 飲み込みきれなかった唾が、トキヤの口から溢れて首筋を伝った。
 そっとパジャマの裾から忍び込んでくる音也の掌に、トキヤは肩を揺らした。腰の辺りを這い回るそれに、トキヤはゾクゾクとしたものが背筋を這い上ってくるのを感じた。
 音也はトキヤの肌の感触を殊更楽しむ。行為の後にまで触ってこようとするほどだ。
 アイドルとして肌のコンディションに気を遣っているトキヤにとって、褒められて悪い気はしない。けれど、恋人に素肌を――それも弱い部分を何度も撫でられて、平然と出来るほど、トキヤも聖人ではない。
 音也の片手は背中を這い回り、いつの間にかもう片手がズボンの中に侵入している。尻のまろみを撫で回すそれに、トキヤは後孔をキュウッと窄めてしまった。
 そのまま腰と尻を持ち上げられて、トキヤは音也の膝の上に収まる。
 音也の腰を跨ぐように膝を広げたトキヤは、体の前面を音也に密着させる。
 身長差のあまりない二人だ。そうなると音也がトキヤを見上げる姿勢になる。
 トキヤは上から音也に覆い被さり、その唇を吸う。
 音也の視線が笑ったと思ったら、乾いた後孔を音也の指がノックした。
「――ん」
 トキヤは身動いだ。
 一度ズボンの中から音也の手が去ったと思ったら、下着とともにずり下げられてしまう。膝で引っかかってしまい、全部は脱げない。その不自由さに舌打ちしたトキヤは、自分からそれらを脱ぎ捨てた。
「トキヤさん。だいたーん」
 上衣はきっかりとボタンを締めて、下衣は裸。扇情的な姿だった。
「馬鹿」
 そう言って、トキヤは上衣もとっとと脱ぎ捨てた。
「音也」
 名前を呼んで、トキヤは音也も促す。無精で下着しか身につけていなかった音也は、あっと言う間に裸になった。
 そうしてどちらからともなく二人はまた抱き合う。
 トキヤが音也に齧り付くようにキスをしていると、背後でパチンと音が鳴った。その後すぐに後孔に濡れた感触がする。ローションで濡れた音也の指だった。
 意図的に下半身から力を抜いて、トキヤは音也に身を任す。
「―――んっ」
 ゆっくりと入り口を揉まれて、少し綻んだところで指が一本侵入を開始する。
 本来は受け入れる場所ではないそこは、いつの間にか音也のものを受け入れることに馴染んでいる。
 異物感にはすぐに慣れて、中に収まるものを締め付けるように内壁が動き出す。
 それに気が付いた音也が、さらに指を増やしてきた。
 もたらされる刺激に、トキヤのものは頭を擡げ出す。
「――ぁ……ン」
 甲高い声が出そうになるのを、トキヤは音也の唇に吸い付くことで封じる。
 トキヤの尻の下で音也のものが大きくなっている。これがこれからトキヤを犯すのだ。そのことにトキヤは無意識に喉を鳴らしていた。
「ククッ」
 音也が喉の奥で笑う。そうして腰を撫でられて、無意識に腰が揺れていたことにトキヤは気が付いた。
 羞恥で顔が赤くなる。
 二本の指で中を拡げられて、それを締め付けてしまう。
 尻の下で勃起している音也のものに、会陰を擦りつけた。
「我慢出来ない?」
 唇を離して訊いてくる音也にトキヤは頷いた。
 音也の指が中から抜けていく。
「―――ッン」
 トキヤは無意識に鼻に掛かった声を出してしまう。
「出来る?」
 音也はトキヤの腰を掴んで、自身の先端をトキヤの後孔へ押しつけた。
 このまま自分で挿れろと音也は言っているのだろう。
 目元を赤く染めながら、トキヤは脚に力を入れた。
「―――ッ」
 音也が双丘を割り開いていると言っても、太い先端はなかなか中に挿ってこない。
 眉間に皺を寄せて頑張って見るも、上手くいかない。トキヤは出来ないと首を振った。
「力を抜いていてね」
 音也にそう言われてトキヤは素直に従う。音也に助けられて、それはトキヤの中に挿って来た。
「―――ぁあッ!」
 太い先端が括約筋を押し広げる。一番の難関が過ぎ去れば、後は簡単だ。一気に挿ってこないように音也の肩に手を突いて、トキヤはゆっくりと腰を落とした。
 尻に音也の陰毛と肌の感触を感じて、トキヤはホッと一息吐いた。
 内壁は音也のものを収めて、一杯に拡がっている。
 音也をしっかりと見つめて、トキヤは腰を動かし始める。
「うん……っ」
 トキヤの喉から音が漏れる。
 中で音也のものが大きくなったのだ。
 恋人が自分の中で気持ちよくなっている。それにトキヤは大きな満足を得た。
「下は俺がやって上げるから、乳首は自分でね」
 音也に両手をそれぞれの胸に誘導される。小さな粒は、ツンと勃ち上がっていた。
 トキヤは音也に見せつけるように胸を反らしながら、腰を上下した。
 トキヤのものには音也の指が絡みつく。
「やあ……っ!あ……おとっ!――おとやっ」
 快感に弱い部分に、同時に愛撫を加えられると、トキヤはもうダメだった。
「ダメ……おとやっ――イッちゃ――イク!」
 腹の奥を震わせながら、トキヤは音也を求めた。
「いいよ、イッちゃえよっ!」
 激しく腰を上下する。そうして今までで一番奥に音也のものが当たった。
 トキヤは頭の奥まで痺れさせながら、音也の腰の上で痙攣した。

(後略)


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