* サンプルページ *


Kaleidoscope

 ST☆RISHがデビューして早十五年。人気も安定して国民的アイドルと言っても過言でないポジションになった。寝る間もないスケジュールも少し落ち着き、ベッドで寝る時間も確保されている。
 そんな日常の中、ST☆RISHのメンバーの一ノ瀬トキヤは自宅マンションの玄関ドアを開けた。
「おかえり〜〜」
 一人暮らしのはずの部屋の中から人の声がする。それもそのはず、同じST☆RISHの一十木音也と所謂お付き合いと言うものをトキヤはしていた。それもかれこれ十五年。ほぼデビュー期間と同じだけ、二人は付き合っている。
 振り返ってみても公私ともども十五年も一緒にいるなんて、早乙女学園に入学した頃のトキヤだったら信じないだろう。
 何で付き合っているのかと言われると、音也の押しに負けた。その一言に尽きる。デビューが決まる直前に音也に告白されて、トキヤはバッサリ断った。当たり前だ。どこにアイドルデビューを目指すのに、男同士で付き合う人間がいる。恋人がいると言うだけで言語道断なのに、男同士という二重苦がついて来るなんてありえなかった。
 しかし音也は、告白を断ったトキヤがHAYATOとしてデビューしているにもかかわらず、アイドル養成学園の早乙女学園に通っているとすっぱ抜かれたとき、トキヤを見捨てずにST☆RISH一ノ瀬トキヤを認めてくれた。もちろん他のメンバーも同じだけれど、音也はその後のHAYATOの仕事で疲労困憊しているトキヤに、音也曰く同室の利を生かしてそっと寄り添ってくれた。あのいつも五月蠅い音也が、鬱陶しく話しかけたりせずにそっとトキヤ好みのコーヒーを用意してくれたり、帰ってくる時間に合わせて風呂の湯を沸かしてくれていたり。あれで音也は人の機微に敏感だった。
 自業自得だとわかっていても、心ない言葉を言われると心はすり減ってしまう。そこに絶妙なさじ加減で優しくされて、ついふらっと蹌踉めいてしまった。
 もちろん理由はそれだけではない。トキヤだってその前から音也の事は憎からず思っていたからこその蹌踉めきだ。アイドルが恋人御法度でなければ「付き合う」選択肢も考えられる程度には音也の事を好いていたのだ。
 まあしかし、そこからは早かった。お互いに年頃の男だ。坂道を転がり落ちるように、体の関係も進んでいった。
 初めてのときを思い出しかけて、トキヤは咳払いをする。
 今思い出しても、二人とも青臭くて恥ずかしい。
「ただいま戻りました」
 リビングにトキヤが入ると、音也はソファーに寝っ転がってテレビを観ていた。
 その番組がトキヤの主演したドラマ、と言うところに昔だったら注意していただろう。音也がトキヤのドラマを観るのは、後学のためなどでは断じてない。「トキヤと俺じゃ役作りからして違うじゃん」という。単にトキヤが出ているから、その理由で時間を潰すくらいなら、自身の出演作品を見直して反省の一つでもすればいいと思う。
 トキヤと同様に音也だって多忙なアイドルなのだ。
「お帰り。ご飯は食べてきたんだよね?」
 今日はドラマの撮影で、意外と早く終わったと言っても既に時計の針は天辺間近だ。
「あなた、こんな時間まで起きていて大丈夫なのですか?」
 学生時代の音也だったら、もう就寝の時間だ。
「明日は午後からだから大丈夫ー!」
 それを聞きながらトキヤはパジャマを用意する。連日の撮影で疲労もピークだった。早々に休みたい。
「トキヤの予定は?」
「明日はひさしぶりのオフです」
 連日の撮影が一段落だ。まだ何シーンか出番が残っているため現場に行くこともあるが、ほぼ撮影は終了している。
「了解」
 その音也の声を背にトキヤは風呂へ向かった。


 疲れを取るためのゆっくりと風呂に浸かり、肌の手入れをする。もう三十を越えて肌の曲がり角はとっくに過ぎた。日頃のケアが覿面に現れてしまう。その為トキヤはどんなことがあってもスキンケアだけは欠かさず、音也にも邪魔させなかった。
 髪の毛もちゃんと乾かし、寝室に向かう途中でキッチンへ寄る。ミネラルウォーターを手に取り、キャップを開け一口飲む。そのままそれを手に持ち寝室へ向かった。
「お待ちどおさま」
 トキヤがドアを開けると、案の定音也は起きて待っていた。ひさしぶりのゆっくり出来る時間だ。音也が逃すはずがない。
「飲みますか?」
 ベッドと最低限の家具しか置いていない寝室は、落ち着いた雰囲気でまとめられている。ベッドは身長の高いトキヤが快適に眠れるために、キングサイズの大きなものを選んでいる。おかげで、音也が一緒に寝ても余裕がある。
 手に持ったミネラルウォーターをサイドテーブルに置きながら、トキヤは音也に尋ねた。
「今はいいや」
 それが冷えていないことは音也も知っている。だから手を出さないのだろう。健康と美容に気を遣うトキヤを尻目に、音也はいつも冷えたジュースやらを飲んでいる。体を冷やすとトキヤがいくら言っても、音也のそれは治らなかった。
 トキヤは上掛けをを剥いで、ベッドへ上がる。これからのことをなるべく考えないように意識を反らす。期待しているように見えるのもしゃくだった。
 長期の泊まりの予定がなければ、何だかんだと音也と毎日同衾している。けれど予定をはそう滅多に合うものではない。セックスは二週間に一回あればいい方だった。
 若い頃であれば、明日の予定も忘れ身体を合わせたこともある。それも二十代を後半になると、無理してお互いの予定を合わせてセックスすることもなくなった。――要はお互いに落ち着いたのだろう。
 ベッドに横になったトキヤの腰に、音也の腕がスルリと巻き付く。デビュー当時に比べて逞しさを増した腕の筋肉が脇腹に当たる。夜はまだ肌寒い。スキンケアに時間を掛けるせいで冷えた肌に音也の熱が心地よい。
「いい?」
 耳元で音也に訊かれてトキヤは頷いた。
 折角身につけたパジャマがあっと言う間に脱がされる。
 音也は無造作にパジャマと下着のゴムに指をかけ、一気に引き抜いていった。
 パジャマの上衣は身につけたまま、下半身は裸になってしまった。布団の上掛けはとうの昔にどこかに行っている。
「相変わらずの気持ちよさ」
 そう言いながら音也がトキヤの内股をスリスリと撫でる。
「音也っ」
 トキヤは声を上げた。
 日頃の努力のたまもので、そこは白くもっちりとした肌を保っている。だから手触りも褒められれば満更ではない。それでも。これからセックスをするのに、そんなところを撫で回されたら、たまったものではない。皮膚の薄いそこは敏感なのだ。
「ごめんごめん」
 全く謝罪の意志がこもっていない返事が返ってきた。
「とっととしなさい!」
 トキヤはプリプリ怒って、上衣のボタンを外していく。そうして音也の服に手を掛けた。
「あなたも脱ぎなさいっ」
 Tシャツを強引に脱がせる。
「珍しく大胆」
 音也がからかうように呟いた。
「――やらないんですか!?」
 その音也の様子に、トキヤの中で何かが切れた。トキヤだって、ひさしぶりの音也とのセックスに浮き足立っていたのだ。風呂場ではいつも以上に丁寧に肌を洗ったし、スキンケアも入念にした。それなのに、肝心の音也がグズグズしていては、トキヤはどうすればいいのだ。
 仰向けに横になっていたトキヤは腹筋を使い起き上がり、音也をベッドへ押し倒した。
 そうしてパジャマの上衣をはだけさせたまま、音也の腰に馬乗りになる。
 視認していたが、トキヤの尻に当たった音也のものが硬くなっている。
「ふざけていると、もう知りませんよ」
 トキヤは音也のものに尻を乗せて、腰をゆっくりと動かして音也を焦らした。
 そうして後ろ手にアナルに指を持っていく。
 ツプリ。利き腕を使って、アナルを解す。
「う……っん」
 トキヤは目を閉じて後ろを解すのに集中した。日頃は閉じているそこも、異物を受け入れる事になれている。あっと言う間に指を飲み込んでしまう。
「は…ぁ」
 音也の視線を感じながら、トキヤはアナルの指を増やした。
 散々若い時分に音也に犯されたせいか、トキヤのそこはすでに性器の様だ。男を受け入れ悦ぶことを知っている。
 指で解していくと、もっと大きいものが欲しくなる。
「あっ!――んっ」
 トキヤは無意識に腰を揺らしていた。
「お前本当にお尻が好きだよね」
 音也の掌が、尻に伸びる。そうして双丘が両手で掴まれた。
「ひっ」
 臀部を揉むように音也が掌を動かし、トキヤは喉を引きつらせた。
 中の自分の指を締め付けてしまったのだ。
 トキヤは前を弄られるのも、乳首や耳だって弱かったけれど、挿入の快感を知ってからはそれが一番になってしまった。女のように中を犯されてよがる。
 音也でなければ、こんな事トキヤは許しはしなかった。それをこの男はわかっているのだろうか。
「はっあ!おと――やっ」
 トキヤはアナルから指を引き抜いた。中は充分に解れている。
 そのまま後ろ手に、音也のペニスをハーフパンツから取り出す。
「あなた――だからっ」
 手探りで先端を確認して、腰を動かす。トキヤは我慢出来ずに一気に音也のものの上に、腰を落とした。
「――っ!!」
 いくら解していても、受け入れる瞬間は衝撃がある。トキヤは息を止めて、それをやり過ごした。
 トキヤはゆっくりと息を吐き出し、腰に添えられていた音也の手を掴む。そうして、両手を繋いだ形で音也の腹に手をついた。
 音也が期待を込めて見上げてきた。それがしゃくでトキヤは中を締め付けてみる。あえて腰は動かさない。音也から視線を外さずに、内壁の奥を締める。
「――っん」
 音也が息を飲むのが面白い。
「あ……」
 音也のものが中で大きくなる。それにトキヤは肩を揺らした。
 実はこの勝負にトキヤの勝因はない。結局音也にいつも最後は翻弄されてしまう。
「トキヤっ」
 音也が強引に起き上がって、トキヤの腰を掴んだ。
「ひぃ―――っ」
 音也が腰を揺すり出す。
 トキヤはバランスを崩さないように、慌てて音也の首に腕を巻き付けた。
「あ、――や……はあっ」
 一番いいところを掠めるように音也のものが入ってきて、トキヤは頭を振った。
「音也っ」
 もっと強い刺激を強請るように、トキヤは音也の名前を呼ぶ。
「今日は積極的だね」
 余裕の音也の様子に、トキヤは音也の背中を抓った。
「いたっ」
「当たり前――ですっ」
 トキヤは音也を睨み付ける。
「私とこういう事をしているのに――っもっと集中しなさい!」
 折角の時間を無駄にしたくない。そう思ったトキヤは、音也が痛いくらいに内壁を締めた。
「――っごめんなさい!」
 眉を顰めた音也が謝罪する。
「ああっもう!!」
 音也が叫んだかと思ったら、トキヤの視界が回っていた。
 仰向けにベッドに押し倒される。白く長い脚は音也の肩に抱えられ、激しく音也のものが出し入れされる。
「ひっ――あ!いいっ……おと――やっ」
 トキヤは嬌声を上げて、髪を振り乱した。
「やあっ!」
 音也の両手が刺激もなくプックリとした乳首に伸びる。
 小さな粒を抓まれると、トキヤは足の指を丸めて内股を震わせた。
「だめっ――だめです!」
 刺激の強さに、トキヤは声を上げる。
「何で?――ちょう気持ち良さそう」
 確かに、トキヤのものは触られてもないのに、先走りでドロドロだった。薄い腹にも雫がこぼれている。
「ひ――ぃっやああ」
 前立腺をガツガツと音也のものが擦っていき、トキヤは一際大きな嬌声を上げた。
「イク――イッちゃう!おと、や――!!」
 前を触られもせずに、トキヤは白濁を溢れさせた。内股は痙攣する。射精の衝撃で中が締まったのか、音也も息を詰めている。
「――ッ……」
 じわりと奥に音也のものが広がった。
「トキヤ――……」
 音也は擦れた声でトキヤを呼んで、トキヤの口に吸い付いてきた。
「は……っんぅ――」
 お互いに舌を絡めさせ、濃いキスをする。
 寝室に水音が響く。
「あ、――んっ」
 トキヤは射精の倦怠感に段々と瞼が重くなってしまう。
「ぉとや……」
 舌足らずな声で音也の名前を呼んで、目を擦った。
「眠い?」
 その質問に、緩慢に頷く。
「寝ていいよ」
 そう言いながら、音也はゆっくりと腰を動かす。
「や――あん」
 トキヤは止めさせなければと思ったが、連日の夜半過ぎまでかかった撮影の疲れに、眠気はピークだった。音也の温かい体温も要因の一つだろう。
「あ……」
 ゆらゆらと音也に身体を揺すられながら、トキヤは眠りに落ちた。
(後略)
 

書店委託直通ページ
back

◆◇◆無断転載・使用禁止◆◇◆
◆◇◆sinceMay 20, 2012スタイルシート多用◆◇◆