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永遠片想い

若干のモブトキ表現がございます。ご注意ください。
※サンプル程度の内容です。
   卒業オーデションが終わり、一ノ瀬トキヤは一年間を過ごした寮に戻って来ていた。靴音を響かせて廊下を歩く。この廊下もあと何回歩くのか。卒業の時が迫っていた。
 トキヤは寮の扉の前で深呼吸する。いつもと変わりないはずの日常が、残り数日となれば愛おしかった。
――ガチャリ
「ただいま戻りました」
 Aクラスの方が早くホームルームが終わったらしく、同室者の一十木音也はすでに部屋に戻って来ていた。
「トキヤ、お帰り」
 入学当初は絶対に無理だと思った同室生活ももうすぐ一年が経つ。何の因果か、二人は卒業オーデションで、W1というユニットとしてデビューすることが決まった。早乙女学園を卒業しても二人の縁が切れることはない。
「早かったのですね」
「うん。リンちゃんが、ちゃんと部屋を片付けなさいって早く帰してくれたんだ」
 そういう音也は、片付けをしている気配がない。
「で、あなたは片付けをしていないのですか」
 最初から大した量の荷物を持ち込んでいない音也といえども、一年間で教材も含めて荷物が増えている。
「だって……」
 音也がお気に入りのクッションを抱き締めて、むくれて見せた。
「もうすぐ退寮なんですよ。片付けが終わらなかったじゃ許されませんよ」
 トキヤは音也の様子に溜息を吐いた。
「だって、寮を移ったらトキヤと別々になっちゃう」
 音也の呟きに、トキヤはギクリと体を強張らせる。
 次に移るシャイニング事務所の寮は一人部屋だった。ユニット活動をするといっても同室は解消だ。
「私はあなたと別の部屋になれて、清々します」
 トキヤは冷たく言い放った。それは決してトキヤの本心ではない。けれど、心の底に沈めた想いを音也に悟らせないためには、必要な嘘だった。
「……っ」
 音也がムッとしている。それはそうだろう。トキヤは以前音也に告白されていた。それなのに、この態度は音也を傷付ける。
 それでも仕方ないのだ。トキヤが音也を何とも思っていないのだったら、もっと普通に接することができただろう。でも、トキヤも音也に恋慕の情を持っている。だからこそ、突き放さなければならない。
 この感情は、アイドルにとって命とりだ。
 トキヤと音也はこれから二人でアイドルになる。一ノ瀬トキヤと一十木音也の二人組ユニットW1は、まだ始まってもいない。それを守るために必要な選択だった。
 直情型の音也に好きだが付き合えないなど通じない。好きなら障害を乗り越えればいいときっと言うだろう。
 芸能界はそんなに甘い世界ではない。シャイニング事務所は取り分けアイドルの恋愛に厳しい。学園でも恋愛禁止だったが、所属アイドルにはもっと徹底していると聞く。
 恋愛が発覚すれば即解雇。それで消えていったアイドルが何人いるのか。
「俺はトキヤと一緒にデビューが決まって嬉しいよ」
 若干元気のない音也の声に、トキヤの胸は痛んだ。
「私もあなたとならきっとトップアイドルになれると信じています」
 それでも沈んだ音也の様子に、トキヤは内心嘆息した。
「駆け出しのアイドルは、あなたが思うほど甘くないですよ」
 大手事務所の後押しがあれば、寝る間もないほどのスケジュールで仕事をこなず事になる。逆に自力で営業して仕事を取るのであれば、仕事のない辛さを味わうことになる。そんなに簡単に自他共に認めるアイドルになれるわけではない。
 それにトキヤはHAYATOを辞めてのデビューだ。HAYATOのファンや、周囲の目も厳しいだろう。愛だ恋だと考える余裕などない。
「あなたと私は一蓮托生なのです。これから芸能界という戦場を歩む戦友でしょう」
 音也が顔を上げてトキヤを見る。
「信頼していますよ。相棒」
 音也が目を見開く。トキヤからこんな言葉が出るとは思っていなかったのだろう。
「――っ!俺もっ俺もトキヤを信じてる!!」
 今泣いた鳥がもう笑う。音也が勢いよくトキヤに抱きついてきた。
「こらっ!危ないっ」
 トキヤは音也の勢いにたたらを踏んだ。


 あっと言う間に卒業式も終わり、新しい寮に移った。新人アイドルの住まいにしては豪華なそこは、シャイニング事務所の関係者のみが住むマンションだ。
 そこから二人は仕事に通う。
 最初のうちは事務所の雑用をしながら、先輩の仕事の見学をしたり、エキストラのオーデションを受ける日々だ。
 例えそれがどんな小さな仕事でも、仕事が入って来ることに、二人は手に手を取り合って喜んだ。
 一枚目のシングルは、元HAYATOのいるユニットという知名度で、そこそこ売れた。一人でも多くの人に聞いてもらうために、二人で地方へ営業も行った。事務所の許可の下、歌わせてくれると言われれば、小さな商店街でも歌った。例え物珍しさだけで立ち止まってくれた人達でも、その中で一人でもファンになってくれたら。そう思って二人で夜中まで頭を付き合わせて歌の練習をした。
「トキヤ――!」
 ドラマの仕事が終わり、トキヤが事務所へ寄ると、音也が大声でトキヤを呼ぶ。
「音也、来ていたのですね」
 今日は二人のスケジュールがばらばらだった。
「聞いてっ!聞いて!!」
 息を弾ませて、音也が笑顔全開でトキヤにじゃれつく。
 早乙女学園時代からボディタッチが多い音也のそれは、周囲に微笑ましく受け入れている。
「2枚目のシングルの発売が決まったってっ!」
 音也の言葉に、トキヤは目を見開く。
「――本当、ですか……」
 思わず声が擦れてしまった。
「さっき日向先生が教えてくれたんだ!」
 音也は学生時代の癖で、つい事務所所属のアイドル兼役員の日向龍也のことを先生と呼ぶ。
「曲は……曲はどうするのでしょう」
 トキヤも気が急く。二人で作曲するのか、誰かに提供してもらうのか。セールス方法はどうするのか。色々と目まぐるしく疑問が浮かぶ。
「七海に書いて貰いたいよね!」
 天才的なセンスを持つ同期の名前が挙がる。
「そうですね」
 トキヤも息を弾ませて音也の意見に頷いた。


 新人らしく小さな仕事でも積極的にこなしながら、トキヤと音也はセカンドシングルの準備を進めた。作曲家は音也の希望通り同期の七海春歌に決まった。トキヤが受け取ったデモテープの曲は本当に素晴らしくて、その曲に音也とともに歌をのせる事を考えると、胸の鼓動が高鳴るほどだった。
 何時間も何十時間も、決まった発売日に向けて準備を重ねたシングルの発売日。トキヤも音也も落ち着きが無かった。一枚目は物珍しさで買ってもらえた。けれど二枚目は。なまじ芸能生活が長いせいで、音也以上にトキヤは緊張する。
 発売日当日。二人で事務所に行きCDの出荷状況や予約状況、発売状況を聞く。それは思った以上に芳しくない状況だった。
「ファーストシングルより、いい出来だと思うのに……」
 その結果に音也は不満を表した。トキヤも出来上がったCDを聴いて、その出来に満足していた。けれどこれが現実だ。一曲は話題性でセールスが伸びても、二曲目からその真価に問われる。今回は話題性もデビュー曲より乏しかった。もっと沢山の人に聴いてもらう機会があれば――。トキヤは二人で歌を歌う場を、喉から手が出るほど欲した。それも小さなレコード店ではなく、全国放送の場で。聴いてもらえればその良さが伝わる。そう確信していたからこそ、余計にそう思ってしまう。
 シャイニング事務所のアイドルが求められるレベルの売上げは、知名度のないアイドルのニッチなプロモーションでは到底無理があった。
「新曲の発売、おめでとさ――ン!」
 いきなり事務所の社長が湧いて出て来る。シャイニング早乙女の奇行は、学園時代から二人とも慣れているので驚きはない。けれど、トキヤは思った以上のセールスの悪さに、嫌な汗が背中に伝った。所詮芸能界は結果が全てだ。
「お疲れ様です。社長」
 トキヤはきっかりと腰を折って挨拶をする。
「お疲れ様です」
 音也もつられるように頭を下げた。
「バ――ット!」

(中略)

「いいよっ!ちょっとこっちに来て」
 局のスタッフらしい人物と、スタジオからプロデューサーが出てきた。トキヤは慌てて姿勢を正す。
「あれ……」
 足を止めてくれたプロデューサーにトキヤは丁寧に頭を下げた。
「おひさしぶりです」
 今日のトキヤはようやく出演出来た歌番組の衣装のままだ。
「HAYATO……ああ、ごめん!一ノ瀬くんじゃん」
 さっきまでの不機嫌が見間違えかと思うほど、ニコニコとプロデューサーが近づいて来た。
「元気にしている?」
「おかげさまで」
 トキヤはにっこりと笑って答えた。
「会議室を借りておいて」
 プロデューサーは一緒に出てきたスタッフに言いつけて、先に行くように促した。
「わかりました」
 スタッフはそそくさと立ち去る。
 人通りはあるが、プロデューサーとトキヤの二人きりになる。
「わざわざ俺の所に来るなんてどうしたの」
 このプロデューサーはHAYATOを演じるトキヤを知っている人物だった。当時のオーデションでスタッフとして関わっていたと聞いた事がある。
 そうしてトキヤがプロデューサーの質を知っている事もわかっている。だからこそ距離を取るトキヤに、好感を抱いているフシさえあった。
 そのトキヤがわざわざ会いに来たのだ。驚くのも道理だ。
「折り入ってお願いがありまして」
 トキヤは伏し目がちに口を開いた。
「意味がわかっている?」
 フッとその人は真顔になる。
 トキヤはその言葉に頷いた。
「そっか。今夜十時」
 その言葉にトキヤはハッと顔を上げる。
「俺の常宿は知っているよね」
 以前一緒になった番組の打ち上げの後に、マネージャーの車で送り届けたことがある。
「はい」
「覚悟があるなら来なさい」
 いつもはフランクに話してくれるプロデューサーが、いきなり知らない大人になった気がした。
 けれども、トキヤはカードを切ってしまった。もう後には引けない。
「ありがとうございます」
 プロデューサーの背中が見えなくなるまでトキヤは腰を折り続けた。


 約束の時間にトキヤはホテルに着いた。フロントに寄らずにエレベーターを使う。トキヤがここへ来たことは、一切記録に残さない。これは業界の暗闇に沈めるべきことだった。
「来ました」
 呼び鈴を鳴らして、トキヤは中へ声をかける。誰に聞かれるかわからないため名乗らない。声で十分だ。
「おいで」
 ホテルの中へ招き入れられた。
 そこは典型的なツインのビジネスホテルだ。
「さて」
 プロデューサーが椅子に深く腰掛け、長身のトキヤを見上げて来た。トキヤは対面に置かれた椅子に座るように促される。
「どうしたの、って聞く権利はあるよね」
 相対しているプロデューサーは、トキヤの知っているいつものプロデューサーだった。これからのことを覚悟して来たトキヤは、少し肩すかしを食らう。
「――どうしても来期のドラマのタイアップが欲しいのです」
 椅子の上でトキヤは拳を握り締めた。
 本当ならこんな方法でなく、正攻法で必要とされたかった。性癖はお世辞にも褒められたものでない人だったが、仕事は本当に素晴らしくて。それでもトキヤは「今」仕事が欲しいのだ。
「私に出来ることなら何でもします。まだ主題歌は決まっていないと聞きました。だからお願いします」
 トキヤは頭を下げる。
「来期のドラマの主題歌をW1で歌わせてください」
「何でも、ねえ?」
 嫌みっぽい言葉に、トキヤは恐る恐る顔を上げる。
「はい」
「こんな事、今の事務所は喜ばないんじゃない?」
 シャイニング事務所は業界でも有名だった。こういうことを所属アイドルに強要する事務所ではない。そういう面ではクリーンなイメージを大切にする事務所だった。
 それに業界で評判がよくなかった前の事務所に所属していたときでさえ、トキヤはそういうことに手を出していなかった。
 実力でHAYATOは業界でのし上がったのだ。
 それなのになぜと言われれば、トキヤは言葉に詰まる。とにかくW1を否定されたくない。その一心だった。
 アイドルを目指すトキヤにとって、唯一音也とずっと一緒にいることを約束された場所を、手放したくなかった。
「それでも、今、どうしても欲しいのです」
「そっか」
 思い詰めた様子のトキヤに、プロデューサーは仕方ないと笑う。
「俺も悪い大人だから、もらえるものはもらうよ」
 その言葉にトキヤは唾を飲み込む。
「覚悟の上です」
 そんなトキヤの様子を見たプロデューサーが、「一ノ瀬くんはこういうことには向かないね」と呟いた。
「服を脱いでベッドに上がりなさい」
 視線で示された窓際のベッドに、トキヤは一瞬だけ音也を思い浮かべて、それから立ち上がった。
 震えそうになる指を気力で抑えつけ、シャツのボタンを一つずつ外していく。
 芸能人として人前で肌を晒すことは慣れている筈なのに、緊張が腹の底から競り上がってくる。
 上半身が裸になり、ベルトへ手を伸ばす。不自然にならないように深呼吸をして、トキヤはズボンを下着と一緒に脱ぎ去った。
 裸で間抜けだと思いながら、脱いだものを椅子にかける。
 それも終わり、手持ち無沙汰になったトキヤは、視線を彷徨わせた。
 チラリとプロデューサーに視線をやると、品定めするようにトキヤを見ている。その視線で、ベッドに上がるよう再度促されて、トキヤはシーツの上に腰を下ろした。
 生まれてから一度も誰かと性的な接触をしたことのないトキヤは、この後どうすればよいのか、よくわからずに戸惑ってしまう。
 しかも聞いた話が本当なら、彼との接触は特殊だ。
「キミも俺の噂くらい知っているよね」
 それは確信めいていた。プロデューサーはもしかしたら以前酔った拍子にそれをトキヤに漏らしてしまったことを忘れているのか。
「以前、飲みの席で直接伺いました」
 みっともなく声が掠れてしまう。
「ああ……」
 プロデューサーは思い出したように頷いた。
「じゃあこの後どうなるかもわかるよね」
「たぶん……」
 当たり前のように言われて、トキヤは自信なさげに頷いた。繰り返すようだが、トキヤにはこの手の経験はない。
 彼は勃起不全を患っているらしい。そのせいで挿入を伴うセックスが出来ない。以前「だからセックスに他の欲求の解消を求めちゃうんだよね」とHAYATOに零していた。
 セックスの相手は男ばかりだが、そこに性的興奮はなく、正常な男性機能を持つ男を女のように組み敷くことによって自尊心を満足させるのだと。
 わずかに立てた膝を、トキヤはおずおずと開いた。
「もう少し開いて、尻の穴を見せてみようか」
 ドラマの撮影現場で出演者に指示するように、気軽に声をかけられる。
 トキヤは覚悟を決めて、大きく脚を開いた。そのまま臀部を両手で掴む。
 ほんの子供の頃以来、そんなところを人目に晒したことはない。色っぽく誘うような高等技術もないトキヤは、出来る限り相手によく見えるように膝を抱えて体を丸めた。
「やっぱり体柔らかいね」
 なぜかそんなところを感心される。
「どれ」
 肩を押されるまま、トキヤはベッドでコロンと仰向けになる。
「あ……」
 まるでおしめを替えるような格好に、トキヤは頬を染めた。
 陰部から肛門まで丸見えだ。
 男性器に興味はないのか、プロデューサーの手は肛門へ伸びた。
 指でさらにあわいを割開かれる。
「流石に綺麗なもんだな」
 トキヤは緊張に思わず尻の穴を締めてしまう。
「恥ずかしい?」
 喉で笑いながら、プロデューサーが訊いてきた。
「はい」
 トキヤは素直に答えた。
「今から尻の穴で女以上によがり狂わせてやる」
 襞を撫でるようにプロデューサーの指が動いた。
「きっと女を抱いても二度と満足出来ない」
 自信満々の様子から、事実そうなるのだろうとトキヤは覚悟する。
 そうなってもトキヤは困らない。トキヤが思いを寄せるのは音也で、一生思いを秘めて生きていくと決めていた。女性と付き合うことなど、きっと一生ない。
「女にキャーキャー言われるアイドルが、女を抱くより尻を犯されたいなんて、恥ずかしいね」
 指を肛門に押し付けられ、トキヤはギュッと目を瞑った。
「いっ」
 乾いた穴に指先が侵入し、反射的に声を上げてしまう。
――ガタン
 物音にトキヤはハッと目を開けた。
「今のは……」
 外の物音でなくバスルームから響いて来た。トキヤは不審を感じてプロデューサーを見る。
「いいと言うまで待つように言ったのに」
 声音に仕方ない子だと苦笑する響きが宿っている。
「約束が違う!」
 バスルームの扉が開いたと思ったら、トキヤのよく知る声が響いて驚いた。
「音也」
 自分で脚を抱えて尻を丸出しの情けない格好で、トキヤは呆然と音也を見た。
「トキヤには何もしないって約束だろ!」
 音也はトキヤを一瞥してプロデューサーを睨みつけた。
「このくらいで何かしたと言われるのは心外だな」
 プロデューサーは肩を竦める。
「どういうことですか……」
 トキヤは腕から力を抜いて呟いた。
 ここに来ることは、音也に知らせていなかった。プロデューサーの存在も知らないはずだった。
 その音也が何故ここにいるのか。
 トキヤは二人の間で視線を彷徨わせる。
「トキヤ」
 音也は酷く冷たい視線でトキヤを見た。怒りを押し殺し、青白く燃える炎が見えた気がした。
「何しているの」
 つかつかと音也がベッドに近づいて来る。
――パチン
 跡になるほど力は入っていなかったけれど、音也がトキヤを平手で打った音が響く。
 トキヤは驚きで目を見開き、打たれた頬を片手で押さえた。
「様子がおかしいから、後を付けてみれば……なに、これ?こんな事して仕事が取れて、俺は何も知らずに喜べばよかったの。――とんだ道化だ」
 音也には似合わない吐き捨てるような言葉だった。
「そんなつもりでは――」
 言いながらトキヤは、ではどんなつもりなのかと、内心自分でも突っ込んでいた。
「痴話喧嘩は余所でやってくれないかな」
 呆れたような声に、トキヤと音也はプロデューサーを見た。
「まあ分かっていると思うけど、タダで帰れるとは思ってないよね」
 不興を買ったら今後の仕事に差し支えるほど、力のあるプロデューサーだった。トキヤは焦る。
 慌てて起き上がり、ベッドから縋るようにプロデューサーを見た。
「私なら何でもしますからっ――だから、音也は見逃してくださいっ!」
 裸身でみっともないとか、気も回らない。
 ベッタリとシーツに尻を付け、体の前に両手を置く。無意識にシーツを握り締めていた。
「約束はちゃんと守ってくれるんですよね」
 そんなトキヤの横から、音也が口を開いた。
「勿論」
 トキヤは音也を見る。
 約束?トキヤの中に疑問が浮かぶ。音也とプロデューサーの間で、何かあるのか。
 トキヤが疑問に思っていると、音也がずいっと近づいて来る。そうして肩を押されて、再びシーツに背中が着いた。
「えっ?」
 これから何が起こるのかわからないトキヤは、目を見開いて音也を見つめる。
「やっ」
 油断していたのが悪かったのか。トキヤは音也に乱暴に足首を掴まれる。そうしてそのまま、割開くように持ち上げられてしまった。
「ひ――っ」
 トキヤはあまりの格好に、喉をひきつらせる。
 音也に股間を無防備に晒す格好だった。
「まだ何もされてないみたいだね」
 尻の穴を音也が無造作に探った。
 プロデューサーに暴かれる以上に、それが音也だというだけでトキヤは意識してしまう。
 乾いた指が襞を触る感触に、トキヤは尻の穴を無意識に開閉してしまった。
「何?期待してるの?」
 音也は蔑んだ視線でトキヤを見た。
「トキヤって淫乱だね」

(後略)

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