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宇宙からの侵略者☆

『おはやっほ〜みんな元気かにゃ〜あ!?』
 私はそんな言葉と共に、カメラの向こうに笑顔を振りまく。HAYATOと名乗り、多くの地球人に接してきたけれど、未だに探し人は見つかっていない。
 人気が出れば出るほど、身動きがしづらくなり、閉塞感を感じていた私は、ある人の誘いに飛びつき、早乙女学園というところに足を踏み入れた。
 それは、私が地球に降り立ってから、五度目の桜の季節だった。
 そして、そこでの出会い。早乙女学園の寮で音也に初めて会ったとき、その出会いに興奮してしまった。探していた相手がようやく見つかったのだ。
 
 
 私達の星は、遺伝的障害を避けるため、一定の年齢になると、ペアリング相手を求め、星の外へ送り出される。
 私も例外なく、遺伝上の父の惑星に送り込まれ、ペアリング相手を探していた。
 地球人と繁殖方法の異なる私達は、一目で遺伝的に適した繁殖相手を見分けることができる。そして、見つけた相手の遺伝子を受け取り、次代を腹に抱え、星に戻るのだ。
 私の両親は少し特殊で、母は出産ギリギリまで地球で過ごしたらしい。
 普通は目的を達成したら、すぐに星に帰る。
 価値観の違う地球人と私達の間に情は芽生えにくい。
 けれど、母は父のことをよく語って見せた。曰く、素敵な人だったと。
 幼い頃からそんなことを聞いて育った私は、少しだけ地球に憧れを抱いていた。
 だからこそ、飛び級で学校を人より早く卒業したあと、暫く星に留まることを選ばず、地球にやって来た。
 けれど、地球は憧れていたほど、よいものではなかった。現実をみて、その憧れも消え失せてしまった。今では、早く目的を達成して星に帰ることだけを考えている。
 
 
 音也に出会った瞬間、ペアリング相手だと本能でわかった。同室という幸運に驚喜し、これでやっと星に帰ることができると安堵した。
 けれどそれから暫くは、どうやってそういった行為に持ち込めばよいのかわからずに、無為な時間を過ごしてしまった。気がつけば桜の季節は終わり、青々とした木々が競い合い、空に向かって手を伸ばす季節になってしまっていた。
 
 
「トッキーヤー―ッ!」
 寝る前の時間をソファの上で読書していると、音也が擦り寄ってくる。
「ひゃっ!」
 抱きしめられ、首筋のにおいを嗅がれる。
「いいにおい〜」
 密着した体温に、身体の奥が疼き出す。
 音也がいいにおいというのは、繁殖相手を誘うフェロモンのようなものだろう。
 音也と接触するたびに、私の身体も、受け入れる準備を始める。けれど、どうやって音也をその気にさせればいいのかわからず、これ以上先に進んだことがない。
「ん〜」
 いつもより長い接触に、身体の奥が濡れてくる。
「いつもより何か濃厚?」
 首を傾げた音也に、背後からさらに抱き込まれる。スンスンと鼻を鳴らす様は、まるで犬のようだ。
「ひゃっあ!」
 さらに抱きしめられた拍子に、パジャマの裾が捲れあがり、音也の手が素肌を這った。
「トキヤの肌、すべすべだね〜」
 無邪気な音也の掌が、無遠慮にパジャマの中を這い回る。
「あっ……貴方は、何を……ッ!」
 適齢期の私の身体は、ペアリング相手との接触に、じゅくりと下着を濡らす。
「う……」
 はしたない声がでないように、慌てて両手で口を塞ぐ。
「あれ、トキヤも感じちゃった?」
 無遠慮な音也の掌が、下着の中に入ってくる。
 地球人を模倣した、私の疑似性器は緩く起ち上がっていた。
「一緒に扱きっこしよっか」
 そう言った音也に、ズボンと下着をあっという間に剥ぎ取られてしまう。力業で向かい合わされ、音也と向き合うと、音也の下半身が目に入って来る。緩く起ち上がっているそれに目が釘付けだ。
「何かトキヤのいいにおいに感じちゃった」
 音也は常と変わらない明るい笑顔を浮かべている。
 けれど私は、音也のことなど忘れ、ずっと焦がれていたと言っても過言ではないそれに、意識を持っていかれてしまった。
 星にいたときに学んだ、雄をその気にさせる方法を、今なら実践出来るかも知れない。
 
(中略)
 
「えぇっと……トキヤ、お前ちょっと太った?」
 音也がとても言いづらそうに切り出す。
 それはそうだろう。私はアイドルとして体型管理に余念がない。たとえ忙しくても、それは変わらない。
「そんなはずは……」
 眉を顰め、私も起き上がる。
「だって、ちょっと下腹がぽっこりしていない?」
 音也のその言葉に、自分で腹を触ってみる。確かに少し、ぽっこりと出ているかもしれない。
 一瞬の後、天恵のようにハッと気がつく。音也を置き去りに、私は裸のまま部屋中を駆け回り、例の機械を取り出し、バスルームに駆け込んだ。鍵を掛けることだけは忘れず、機械を慌てて挿入する。
「トキヤ〜どうしたんだよ!?」
 扉の外では、音也がガンガンとドアを叩いていて、その声に心配の色が混じっていたが、今はそれどころではない。
 祈るようにアラームを待つ。
――ピピピピ
 そこに表示されていたのは「陽性」。
 その表示に、私は心底安堵した。
「トキヤ!開けてッ!!」
 音也の大声に、私はやっと現実を認識し、機械を握りしめたまま慌てて鍵を開ける。
 そこには心配を顔に貼り付けた音也がいた。
「どうしたんだよ?」
 音也の手が目尻を滑っていく。それで初めて、私は私が泣いていることを自覚した。
 裸の私に、音也がそっとバスタオルを掛けてくれる。
「何かあった?」
 音也に抱きしめられ、優しさに包まれる。
 私は音也の肩に顔を埋めながら、そっと下腹に両手を置いてみる。
 まだ、鼓動も分からない小さな命だったが、ここに音也との子供がいる。それだけで、胸が温かくなった。
 やっぱり音也で間違いなかったのだ。
 
 
 その日は結局、私を心配した音也がもう休もうと言いだし、セックスはせずに二人してベッドに潜り込んだ。隣からは音也の寝息が聞こえてくる。
 ゆっくりと現状を考えてみる。
 外部から妊娠が分かるほどと言うことは、誤差は多少あっても月齢で十八ヶ月は経っている。あのときの機械が単に故障していたのだろう。私達の妊娠期間は約三十ヶ月。その間、腹に大切に抱えて育てていく。外的環境が厳しい私達の星は、ある程度成熟した成体で子供を産む。そして子供の期間は短く、すぐに成長していく。この子もおそらくそうであろう。
 どのくらいまで、腹が目立たずいられるだろう。そんなことを考えてしまった自分に愕然とする。
 あんなに帰りたいと思っていた星に、帰りたいと思わない自分がいた。それよりも、音也の傍にあとどれだけいられるのかを考えてしまった。
 いつの間にか、私も音也に好意を寄せていたのだ。
 恋を自覚した途端、別れが迫っていたなんて、なんて滑稽なのだろう。それならいっそ、最後まで気づかなければ良かったのに。
 あと、半年……いや、三ヶ月。その程度が限界だろう。単なる一般人だったら太ったでごまかしが効いても、アイドルの私にそれは使えない。
 あと三ヶ月。音也と一緒にいられる時間を指折り数える。あまりの短さに、自然涙が溢れてくる。
「あと…さん、か…げつ」
 声に出してみる。そうすると、具体的にその数字が迫ってくる。きっとあっという間に過ぎてしまう。離れたくないとジクジクと痛む胸を抱え、一晩中涙が止まることはなかった。
 
(後略)

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