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 廊下を歩いていた一ノ瀬トキヤは、窓から聞こえて来た喧噪に立ち止まる。開け放たれたそこからグランドを見下ろすと、目立つ赤毛がサッカーコートを元気に走り回っていた。
「翔!こっち」
 赤毛の主は、この早乙女学園でトキヤと同室の一十木音也だ。きっと、最近少しずつ露出を始めたテレビで見せる笑顔と同じ顔で、ボールを蹴っているのだろう。声色からも楽しそうな様子がうかがえる。
 それを少しだけ眺めて、トキヤは再び歩き始める。今日は少しだけ出来た時間を使って、先ほどまでレッスンをしていた。そうして今はHAYATOの仕事のため、そのレッスンを切り上げて一旦寮へ戻る途中だった。
 何をどう転んだのか、トキヤは早乙女学園で偶々同室になった一十木音也と一緒に、再デビューすることが決まっている。HAYATOとしての仕事に迷って悩んで、早乙女学園の門を叩いたトキヤが、入寮時には想像もしていなかったことだった。
 けれど今はそれもまた一つの道だと思えるようになった。音也との出会いは、トキヤに取ってそれだけ衝撃で。
 天真爛漫で裏表などない音也は、その笑顔一つで人の視線を惹きつける男だ。まるでそう、トキヤが散々苦労して演じている人気アイドルHAYATOのように。
 初めは嫉妬もした。歌の技術もMCのテクニックもトキヤに遙かに及ばない音也のくせに、天性のアイドル性だけは持ち合わせている。その一点だけで、アイドルとしての価値は音也の方が高く、トキヤは何度苦渋を舐めたか。
 けれど一緒に歌って、怒って笑って、そうしているうちに、トキヤは大切にしていたものを思い出せた。
 俳優ではなく歌をうたいたかった理由。歌う楽しみ。忘れていた初心。
 それらを与えてくれた音也に、トキヤはいつの間にか恋していた。
――音也。
 心の中で、トキヤは大切な名前を呼ぶ。
 今日の収録が終われば、明日はひさしぶりのオフだった。撮影は天辺を越えるだろうけれど、音也は絶対に起きて待っている!と意気込んでいた。
 だからなるべく早く撮影が終わるよう頑張ろう。そう思いながら、トキヤは収録スタジオへ向かった。


「ただいま戻りました」
 寮の扉が完全に閉まったことを確認して、そっと声を掛ける。完全防音の寮だったが、こんな深夜に扉を開けたまま声を出すなど近所迷惑甚だしい。
「おかえり〜〜」
 少し眠そうな声をした音也が、それでもとてとてと出てきて迎えてくれる。
「ただいま戻りました」
 もう一度音也の顔を見て言って、トキヤは洗面所を目指す。シャワーは収録のあとに浴びてきたから、手洗いうがいをすればトキヤも就寝出来る。
 丁寧に両手を洗って、トキヤは制服をハンガーに掛けていく。下着も取り替えてパジャマへ着替えると、就寝の準備は完了だ。
 トキヤが部屋へ戻ると、音也が眠い目を擦りながら、ベッドの上でシーツをポスポスと叩いている。トキヤもここに来いと言いたいのだろう。
「眠いのでしたら、今日はもう寝ましょう」
 音也のベッドの傍らに行って、トキヤは困ったように笑う。
「いいから」
 眠気のせいか、少し我が儘になった音也が、トキヤの腕を引っ張った。
 トキヤもそれに逆らわずに、ベッドの上に座る。
「――ぅんっ」
 むぎゅっと音がしそうなほど勢いよく、音也の唇がトキヤの唇へ重ねられる。
 そう。二人はつい先日両想いになったばかりの、恋人同士だった。
 自身の恋が叶うなど思っても見なかったトキヤは、この恋に少し浮かれていた。だから思った以上に手の早い音也に流されるよう、トキヤは何度か音也とキスをしている。
 ドキドキとしながら、トキヤはそっと唇を開けてみる。
 すかさず、音也の舌がその隙間から入り込んでくる。
「――……くちゅ」
 唾液の混ざり合う音が耳に響く。
 二人は夢中で唇を重ねる。
 いつの間にか、拳を握ったトキヤの手の上から、音也がトキヤの手を握り締めている。
 もっと深く交わりたい。そんな欲求がトキヤの心に湧いてくる。トキヤが手を動かすと、音也はトキヤの手を解放してくれた。だから、そのままトキヤは音也の背中に両手を回す。
 トキヤが音也のTシャツを握り締めたとたん、音也がトキヤの腰を攫うようにして抱き締めて、トキヤはベッドの上に仰向けに寝そべった。
 捲れたパジャマの裾から、音也の手が侵入してくる。その手の平の熱さに、トキヤはビクンと反応する。脇腹から腹、そのまま胸へ動く手の平に、そろりと内股を擦り合わせる。キスの興奮と音也の視線に、トキヤのものは芯を持ち始めている。
 いやらしく身体を撫で回され、トキヤの気分も盛り上がっていく。
「は――ぁっおと…やっ」
 キスの合間に呼ぶ音也の名前は甘く響く。
 胸の頂をクリクリと両手で弄られて、トキヤは仰け反ってしまった。
「はああ……っん」
 女性ではないから、初めはそんなところが感じるなど信じられなかった。けれど若い身体はすぐに状況に馴染んでしまう。まだ片手で数えるほどの経験しかないのに、トキヤのそこは、音也に撫でられて気持ちよいと感じるようになっていた。
 トロリと下着が濡れる感触がする。
 トキヤは我慢出来ずに、音也へ股間を擦りつけてしまう。ちょうど当たる音也の股間も、硬くなっていて、ますますトキヤは興奮してしまう。
「トキヤ……っ」
 切羽詰まった声を出した音也が、胸から手を離して、トキヤの下着の中へ手を突っ込んだ。音也は性急に二人分の性器を取りだして、まとめて握り締める。
「あ……ああっ」
 お互いの性器は、先走りでびしょびしょに濡れている。
 トキヤも音也の背中に回した手を離して、二人の間に挟まれた性器へと手を伸ばした。
 両手で握り締める音也の上から、トキヤは鈴口を刺激する。
「あ、――トキヤっ!だめっ」
 クリクリと弄れば、音也から上擦った声が漏れる。
「おとや――っ」
 トキヤの声にも普段の余裕など一欠片もない。
 あっと言う間だった。二人は一瞬のうちに登り詰め、お互いの腹を白いもので汚していた。
「はあ……っ」
 射精の倦怠感か、音也がトキヤの上に崩れ落ちてくる。
「音也――」
 普段なら重くて一瞬のうちに蹴り落としていただろうけれど、トキヤも疲れている。それに何となく音也と離れがたくて、その背中へもう一度腕を回した。
 お互いの服は、精液で汚れてこのまま寝るわけにはいかない。だから少し落ち着くまで、そう思ってトキヤは音也の体温に浸る。
「ねえ……トキヤ――」
 耳元で囁かれて、トキヤはビクンと身体を跳ねさせる。人より高性能な耳は、音也の囁きの中に潜む欲望さえ拾ってしまう。
 先ほどまで性器を握り締めていたはずの手が、トキヤの後ろへ回されていた。
「いい?」
 服の上から、尻の穴を探られる。それにトキヤの身体が硬直した。
「あ――」
 トキヤはキョロキョロと視線を彷徨わせてしまう。音也と付き合うことになって、トキヤも男同士のやり方を調べたから、音也が何を求めているのかわかる。
 トキヤのそこへ挿入したいのだ。
 何人もの人がやっているのだから、きっと不可能ではないのだと思う。けれど、音也のものが排泄器官でしかないそこに挿いるなど、トキヤには信じられなかった。
 多分、付き合った勢いのまま身体を重ねていれば、こんな尻込みもしなかったと思う。けれどなまじ調べて知識を仕入れてしまったがために、頭で考えてどうしても踏み出せなくなってしまっていた。
 そんなトキヤの戸惑いを感じたのか、音也の手がそこから離れていく。
「いいよ」
 苦笑しながら音也がトキヤを見た。
「トキヤが嫌ならしない」
 いいといいながら、本音はしたいのがわかる表情で、音也が離れていく。トキヤは思わず音也に縋りそうになって、慌てて手を握り締める。
 身体を許さないのはトキヤなのに、そんなこと酷いこと許されない。
「着替えて寝よっか」
 ごろりとベッドに転がったかと思ったら、音也は腹筋だけで起き上がった。もうスウェットで隠れてしまった音也の股間は、少し盛り上がっている。
 トキヤは思わずそれを見ない振りをしてしまった。
 このままではいけない。そう思いながら、どうすることも出来ずに、トキヤは悶々としながら、この日も就寝をする。


(中略)

 射精の瞬間の硬直が解けると、段々とトキヤの身体は弛緩していく。
 トキヤが呆然としている間に、音也がトキヤの吐き出した精液を指に絡め取っている。何をしているのか。トキヤが疑問に思う前に、後孔の入り口に、音也の指がもう一本添えられていた。
 つぷりと押し込まれると、襞が音也の指の形へ拡がる。力の入っていない身体は、二本目の指を素直に受け入れる。
 射精の余韻で霞む視界の中、トキヤは音也へ視線をやった。
「お、とや?」
 擦れてしまった声に、トキヤは羞恥を感じて頬を赤く染めた。
「少し慣らしたら、洗浄の仕方、教えて上げるね。トキヤ」
 トキヤは音也の言葉が理解出来なかった。
 くちゅくちゅくちゅ。丁寧に動かされる指に、トキヤはようやく自身の後孔の状況を悟る。
「あ、――なっ……あ…ぁ……」
 今日何度目だろう。トキヤはまた顔を真っ赤にしてしまった。
「大丈夫。大丈夫」
 宥めるように音也がトキヤの目尻や鼻の頭へキスをしている。
 反射的に後孔に力が入り、内壁で音也の指の形を感じ取ってしまう。そんな中、音也が指を波打たせるように動かして、トキヤは悲鳴を上げた。
「や――ああっ」
 キュウキュウ締め付けているのに、音也の指は小刻みに動いている。逃げたくて、シーツを蹴ろうと下半身に力を入ると、余計に音也の指を締め付けてしまう。
 トキヤはもう許して欲しくて、ポロポロと生理的な涙を溢しながら、縋り付くような視線を音也へ向けた。
 その視線が効いたのか、ようやく音也はトキヤの後孔から指を抜いてくれる。第一関節が抜ける間際に、指二本分以上に入り口を拡げられたことなど、些細なことだった。
 やっと解放された。そうトキヤが安心していると、休む間もなくいきなり身体が浮遊感に包まれた。
「な……にっ!?」
 トキヤが驚きに声を上げる頃には、危なげない音也の腕に横抱きに抱えられていた。
「身体を流さないと気持ち悪いだろ。トキヤ」
 確かにそうだが、音也に抱き上げられている理由にはならない。浴室へ行くなら、トキヤ自身の足で歩いて行く。
「自分で歩けますっ」
「いいからここは俺の言うこと聞いて」
 まるで子供へ――今の音也から見れば、トキヤは充分子供だろうけど――いうように、音也が言う。
 そんなやりとりをしている内に、脱衣所へ辿り着いてしまった。足で浴室の扉を蹴り開けた音也は、着衣のまま浴室へ入り、やっとタイルの上へトキヤを降ろしてくれた。
 そのまま音也は浴室内で服を脱いでいく。
 裸のトキヤと対照的に、音也はまだほとんど服を身につけていた。それが。
 段々と露わになる音也の裸体に、トキヤはそっと視線を外す。その体は、服の上からでもがっしりしていたけれど、裸になると着やせしていたことがわかる。
 鍛えられた上腕二頭筋や厚い胸板。どこをとっても鍛えられた大人の男性の体だった。
 そんな体だから羞恥もないのか。音也はあっさりと下着も脱いで、全裸になった。そんなに広いとはいえない浴室内。視線を反らせてもどうしても視界に入ってきてしまう。
 勃起した状態の音也のものが視界に入って、使い込まれたそれにトキヤは頭に血が上っていくのが自分でもわかった。
 同じ男同士。その状態の辛さはわかる。いくら落ち着いた大人だといっても、それをそのままにしておくのは辛いはずだ。
 音也が自身を最後まで抱くつもりがないのも、トキヤは感じていた。そうなると、トキヤが出来ることは一つ。それくらいなら、今までも音也としていたことだ。
「あの……それ――」
 チラリと視線をやることで、トキヤは音也へ伝える。
 そうして覚悟を決めたトキヤは、音也のものへ右手を伸ばした。
「――ッ」
 ぎゅっと握り締めると、音也が息を止める音が聞こえてくる。
「トキヤ」
 欲望の滲んだ声で、音也に名前を呼ばれる。
 耳馴染んだ声より僅かに低いそれに、トキヤはドキリとしてしまう。
 今トキヤは、音也であって音也でないひとのものを握っている。
 何度かやった過去の経験を思い出しながら、きゅっきゅと手の力に強弱をつけると、少しずつそれは硬度を増していった。
「あ……っ」
 トキヤの手の甲へ音也の手が重ねられる。そうして、音也の手が、トキヤの手の上から自身を射精へと導いていく。
 段々と手の動きが速くなって、音也が息を止めた瞬間、びゅっびゅっと白濁液が飛び出してきた。
「――ッ!」
 浴室へ座り込んでいたトキヤと、立っていた音也。音也のものはちょうどトキヤの顔の高さだった。いきなり飛んできたそれに、トキヤは反射的に目を瞑る。
 閉ざされた視界でも、生温かいものが顔から胸にかけて、掛かっているのがわかった。
 何が起こったのか。現状把握が出来なかったトキヤは、瞑ってしまった目を開けて、音也を見る。
 頬に飛んだ液体が、顎を伝ってタイルへぼとりと落ちた。
「何を――ッ」
 いきなりシャワーのコックを捻って、トキヤの頭から水を流し始める音也の傍若無人さに、トキヤは抗議の声を上げる。
「無自覚なのはわかってるけど……」
 そんなトキヤに、音也が溜息を吐く。
「男の精液ひっかぶって、上目遣いで見上げるとか、襲われても文句言えないって」
「――せ……っ」
 音也の言いようにトキヤは絶句する。
 さっきの生温かいものは、音也の精液だったのだ。ようやくトキヤの中で理解が追いついた。それを肌に纏い付かせたまま、音也を――…。
 先ほどの自身がどれほど破廉恥だったか。ようやく思い至ったトキヤは、穴があったら入りたい気分だ。
「そんなつもりでは……っ」
 ポタポタと髪の毛から落ちる水滴に、濡れた髪の毛を掻き上げながら、トキヤは首を振る。
「計算してやってたらそっちの方がびっくりだよ」
 音也がシャワーヘッドを握ったまま、しゃがみこんだ。視線の高さを合わせたガーネットが真っ直ぐにトキヤを射貫く。
「年相応が一番だって」
 シャワーヘッドを持っていない方の手が、トキヤの頬の水滴を拭っていく。
「じゃあ、ちゃっちゃと終わらせようか」
 音也からぽんぽんと頭を叩かれて、そのまま背後へ回り込まれる。
 何を?とトキヤが疑問に思う隙もなく、背後から音也に抱き締められて、長い脚を抱えられていた。
「え――!?」
 驚いている暇もない。
 あっと言う間に、音也の脚の外側に脚を引っかけられ、大きく開脚する姿勢をとらされる。
 そのあられもない姿に気が付いたトキヤは、咄嗟に身を捩って逃れようとした。
「ほら。すぐすむからおとなしくして」
 そんな抵抗をものともせずに、音也はどんどんと突き進む。
 性器を持ち上げられたかと思うと、先ほどまで音也に弄られていた後孔へシャワーヘッドが向けられていた。
「ひゃ――あっ」
 急な刺激に、思わず声が漏れる。
 襞を刺激する水流に、トキヤは身を強張らせた。
「さっきローションを沢山使ったから、ちゃんと洗い流さないと」
 合理的な目的がわかっても、受容出来るとは限らない。
「自分でします!」
 散々音也に後孔を弄られたと言っても、もう一度など到底無理だ。
 トキヤは何とか音也からシャワーを奪い取ろうと、手を伸ばした。
「だ〜め。やったことないのに、ちゃんと出来るはずないだろ」
 十六歳の音也なら、まだ丸め込めたかもしれない。でもこの四十六歳の音也は駄目だ。長い芸能生活で酸いも甘いも知り尽くした大人に、十七歳のトキヤが勝てるはずもなかった。
 後孔の襞を拡げられて、少しずつシャワーの湯が直腸へ入ってくる。
「――っ」
 それは不快感とも言えるもので。
 湯を遮るために、後孔はぎゅっと締まってしまった。
「ほら、力を抜いて」
 そんなことを言われても、トキヤはどうすることも出来ない。
「出来ませんっ」
 トキヤは無理だと首を振った。
「大丈夫。出来る出来る」
 無責任な音也の声とともに、後孔へ指が一本侵入を開始する。
 咄嗟に締め付けてしまうと、まるで宥めるように内側から後孔をゆっくりと摩られる。
 入り口に近いところを優しく擦られると、段々と疼きが湧いて身体の力が抜けてくる。
 それを察したのか、縁の部分にもう一本指が添えられて、外側と内側から入り口を拡げるように反対方向へ引っ張られた。
「ひゃ――あっ」
 僅かに開いた隙間から、お湯が流れ込む。その湯を使って、中に入った指が、内壁を洗い流すように動き始めた。
 今まで感じたことのない不快感に無意識に体は逃げを打つ。
「いやっ――やめてくださっ」
 音也の腕の中で暴れても、鍛えられた体はびくともしない。湯を纏った指が、中のものを掻き出すように内壁を往復している。
 その感触に、トキヤはぞわりと何かが背中を駆け上がるのを感じた。
「いや、だ――ッ」
 尿道を伝って何かが溢れていく。シャワーの水流で音也は気付かなかっただろう。でも、トキヤにはわかる。それは排尿の感覚だった。
 トキヤはあまりのことに、ショックで呆然としてしまう。
 心の中で「まさか」「そんなはずはない」の二言がグルグル回っている。そうやって否定しようとしたって、否定できるものではない。トキヤが一番わかっている。トキヤは情けなさに溢れてきそうな涙を堪えるため、唇を噛み締めて両手を握り締めた。
 そんなことをしている間に、後孔の洗浄は終わりを迎える。
「お終い」
 ぽんぽんと音也の手の平が、トキヤの尻を叩いて、ようやく解放される。
 それどころでなくなったトキヤは、解放されると同時に浴室にへたり込んでしまった。
「トキヤ?」
 そんなトキヤの様子を不審に思った音也が、トキヤの目の前で手を振っている。
「そんなに気持ち悪かった?」
 音也は見当外れなことを心配している。でも真実を知られるわけにはいかない。
 トキヤは音也の勘違いに乗ることを決断した。
「ええ……」
 不自然にならないように気をつけて、慎重に表情を作る。
「もう二度とごめんです」
 眉を顰めて苦々しく言った。
「う〜〜ん……」
 それを聞いた音也が、困ったように首を傾げる。
「中を洗浄出来ないと、アナルセックスは出来ないよ」
「……――ッ!!」
 しばらく音也の発言を咀嚼するように考えて、トキヤは勢いよく顔を上げる。
「何でそれを……ッ」


(後略)


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