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Call me&Come back

「ばっかやろ〜〜」
 一十木音也は事務所からもらってきた新聞を前に、悪態を吐く。今日の仕事は終わり、明日は午後からという夜の時間。サッと浴びたシャワーの名残で、湿り気を帯びた髪の毛をソファーに押しつけるように横になる。
 新聞は本日発売の三流紙。芸能面がデカデカとトップに踊っているものだ。そこにかつて学生時代を一緒に過ごした日本人が載っている。一ノ瀬トキヤ。日本人にして、アメリカで成功したトップアーティスト。そうして、一応まだ音也の恋人のはずの人物だ。
「五年も会ってないけどね。音沙汰もないけどね」
 二十代半ば、人気絶頂のときにさらなる高みへ昇りたいといって渡米してしまった恋人は、成功するまでは連絡しませんと宣言したとおり、一切の音沙汰がない。
 時々聞こえてくる噂話と、芸能記事がトキヤの近況を知る唯一のものだ。
「待ってるって言ったけど、さすがの俺も浮気するよ〜〜」
 そんな気は一切なくても、音也はつい呟いてしまった。
 新聞記事には、全米チャートのトップをとり、いよいよツアーが始まる。そんな内容が、誇らしげに書かれている。日本人として快挙だ、一ノ瀬トキヤの歌は素晴らしい。そんな論調だった。
 おまけのように、日本にいた頃の活動が紹介されて、音也がトキヤと一緒に映った写真が載っている。まだ十代の頃に、トキヤとユニットを組んで出したCDのジャケットだった。
 音也は傍らの携帯電話へチラリと視線をやって、もうふて寝するしかないとベッドへ向かった。
 新聞の横には鳴らない電話。五年前から機種は変わっても、番号もメールアドレスも変わっていない。それなのに、やっぱり今日も待ち人からの着信はなかった。

(中略)

 リムジンは音也も何度か宿泊したことのあるホテルのエントランス前に止まった。
 二人は車から降りて、そのまま部屋へ向かう。チャックインはあらかじめ別の人間がしており、部屋はすぐに使えるように整えられている。
 トキヤの宿泊用の荷物も、すでに運び込まれて荷解きされている。アメリカで人気のアーティストであるトキヤはVIP待遇だ。
 音也はトキヤを急かすように中へ入り、ベッドルームへ急ぐ。
 もう、本当に待てなかった。
「シャワー!」
 それなのに、トキヤが足を止めてしまう。
「シャワーだけ、浴びさせてくださいっ」
 焦った声で叫んだトキヤに、音也は首を振る。
「ダメ。もう待てないって言ったじゃん」
「すぐに出てきますから!――十分だけ!」
 頬を赤くしながら必死に抵抗するトキヤに、音也の頭は少しだけ冷静さを取り戻す。
「やっぱり嫌なの?」
 音也はトキヤから声を掛けてくれたから、トキヤの気持ちも変わっていないものだと思っていた。けれど五年間離れている間に、トキヤが心変わりしない保証などない。
 途端に不安が頭を擡げる。
 けれど、トキヤは無言で首を振る。
「――五年ぶりだからこそ、あなたをちゃんと感じたいんです」
 それでようやく音也もトキヤの言いたいことを察する。
「俺も一緒にシャワーを浴びる」
 シャワーを浴びたいというのは、字面通りの意味ではなかった。音也もトキヤも男で、二人が繋がるにはアナルを使うしかない。そこをきれいにする時間が欲しい。それがトキヤの本心だろう。
 でもその待つ時間が音也は耐えられない。二人で一緒に浴室へ入れば、その問題は解決できる。音也が手伝えばいいのだから。
「ば……っ!い、や!ですっ」
 それなのにその案はトキヤに力一杯拒否される。何故拒否されるのか分からずに、音也は首を傾げるしかない。
 昔はセックスの事後処理で、音也がトキヤのアナルを洗浄したこともある。拝み倒して、何度かは前処理もさせてもらった。今さらだ。
「何で?俺が洗ってあげるよ」
 だから音也はトキヤが嫌がる理由がわからない。
「――ッ」
 トキヤは音也の言葉に赤面して絶句している。
「少しはデリカシーってものを学んでください!」
 ヒステリーのように叫んだトキヤが、その勢いのまま浴室の扉を閉めてしまった。カチャリと鳴った音に、音也は鍵を掛けられたことを知る。驚くほど素早い動きで、音也が呆然としている間に、トキヤは浴室に消えてしまっていた。
「え〜〜」
 不満たらたら。音也は扉越しにトキヤへ聞こえるように声を上げる。けれどそんな声、聞こえていないというように、すぐに水音が響き始める。
 こうなったら終わるまで決して開かれないだろう扉を睨み付けて、音也は諦めて溜息を吐く。次に浴室のドアが開かれたら、もう一秒だって待ってやらない。そんな覚悟で、音也はバサバサと着ている洋服を脱ぎ散らかして、ベッドへダイブした。
 天井を見上げながら、音也は考える。壁一枚向こうでは、今、トキヤは音也に抱かれるための準備をしているのだ。きっとあの細く長い指をアナルへ埋めて中を洗っている。それを想像するだけで、とっくに枯れ果てたのではないかと心配していた音也の性器は緩やかに力を取り戻す。
 洗うだけのはずが、指で内壁を刺激してしまって、今頃震えているかも知れない。
 そんなことを想像していたら、ついつい「くふふふ」と笑いが漏れてしまう。
 五年間ものブランクに、気持ちが離れてしまっていたらどうしよう、単なる同僚だと言われたらどうしようと思っていたけれど、単なる杞憂ですみそうだ。
 音也はトキヤ早く出てこないかなと思いながら大の字になった。
 かなりの時間、待った。ようやく浴室から出てきたトキヤが、ベッドルームを眺めて、呆れた声を上げる。
「あなた、少しは慎みを持ちなさい」
 ベッドルームに寝転がった音也のペニスは、天に向かって勃起して、すでに臨戦態勢だ。
「トキヤが遅いのが悪いんじゃん」
 音也は腹筋だけで起き上がって、トキヤを促すように両手を伸ばした。
 それに誘われるように、トキヤがベッドへ上ってくる。
 もう我慢出来ない音也は、そんなトキヤの腕を引っ張って、自分の腕の中へ閉じ込める。相変わらず細い腰を抱き締めて、伸び上がるようにトキヤの唇にキスをした。
 座ったままの音也の膝をトキヤが跨いで、二人は向かい合った状態だ。音也はトキヤを見上げる姿勢で、ねっとりとその唇に吸い付く。薄い下唇を吸って、少し開いた隙間に舌をねじ込んだ。最初からディープなキス。舌を絡めて唾液を奪い合う。
 顔を下へ向けたトキヤの口から、飲み込みきれなかった唾液が垂れて、音也の顎を伝って落ちていく。
 キスをしながら、音也の手は、トキヤの尻の狭間へ伸ばされる。キュッと締まったアナルは、洗浄の名残か湿り気を帯びている。五年もご無沙汰だったそこに、音也は無理に侵入することをせず、まずはマッサージするように優しく刺激してみる。
「んっ」
 トキヤが鼻に掛かった声を上げた。いくら飢えていてももっとゆっくり進もうと音也は思っていた。しかしトキヤのアナルは、まるで音也の指を喰むように、開閉を繰り返した。指一本ならいけそうで、音也は人差し指の先っぽを挿入してみた。
「――」
 トキヤの腕が、音也の首に回って、ぎゅっと締め付ける。
 少し緊張で強張っているけれど、痛みは感じていないようだ。それを察した音也は、そのまま人差し指を深く挿入した。
 指がきゅうきゅう締め付けられ、内壁も動いている。ますますトキヤの腕に力が入った。
 五年ぶりの秘肉の感触を、ゆっくりと確かめる。五年前、音也を天国に連れて行ってくれたそこは、今でも熱く狭い。それでも音也が指を動かすと、柔軟に拡がって、ねっとりと絡みついてくれて。
 音也はトキヤが一番感じるところを、優しく擦ってみた。
「やあっ」
 トキヤの背がしなって、唇が離れてしまう。指で感じたトキヤのペニスは、トロトロと先走りを零して、音也の下腹部を汚してくれた。
「トキヤ。自分でシてた?」
 いくら五年前に散々アナルセックスをしていたといっても、この柔らかさは不自然だった。アナルは定期的に解さなければ固く閉じてしまうと、音也は以前聞いたことがあった。
 トキヤが真っ赤に染まる。どうやら図星だったようだ。
「あっ――あなたがっ!」
 羞恥のためか、瞳が若干潤んでいる。
「あなたのせいですっ」

(後略)





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