環
「なっつき――!」
音也は捜し人を見つけて、全力で駆け寄った。
「おい!廊下は走るんじゃねぇ」
それを見たSクラスの担任に怒られながらも、どこ吹く風。
「すみません!」
謝りつつも、足は止まらない。
「音也君。どうしました?」
駆け寄ってきた音也に、那月は首を傾げる。
「リンちゃんが今度のスタジオ見学のプリントを取りに来てって」
「林檎先生がですか?なら、翔ちゃん。僕ちょっと取りに行ってきます」
那月は手に持っていた謎の物体をテービルの上へ置いて、職員室を目指して歩き出した。
「……翔」
それを見送った音也と翔。
「これ、何?」
そこにはどうやったらこうなるのか不思議な、ドロドロとしたものが置かれている。
「――カップケーキのたね、らしい」
翔が重苦しい声で、ボソリと呟く。
「――これが……」
音也も喉が詰まったような声を出した。
「ユーたち、何してるのデスカ〜〜?」
そんな中、神出鬼没で有名なシャイニング早乙女が現れる。
「おっさん」
「おや。それは……」
そんな早乙女も、怪しい物体に気が付いたらしい。
「ミスター四ノ宮の作品で――すね」
何がおもしろいのか、ははははと高笑いが始まった。
「そうですか!わかりマ――シタッ。ミーに任せてください!!」
音也も翔も話の展開について行けない。
「友人思いの二人に、ミーから超強力な胃薬を進呈しマッ――スッ」
取り出されたものに、音也も翔も半信半疑だ。
「ムム。ミーのことが信じられませんか?」
「そんなこと――……」
「おっさんのことなんか、信じられるわけないじゃん」
「ありません!」
音也の暴言に、翔が焦って大声を出す。
「俺らのためにありがとうございます!」
翔は早乙女から、怪しい薬をひったくるように受け取った。
「あ!社長っ」
そんな最中に、龍也の声が響いく。
「では、みなさん。サラバッ!とぅっ」
龍也から逃げていたのか、その瞬間、早乙女は窓を突き破って姿を消した。
「くそっ逃げられた!」
悔しそうな龍也の声が響く廊下を、那月が戻って来た。
「翔ちゃん。音也くん」
嬉しそうに駆け寄って、途中だった調理に取りかる。
「ふんふんふん〜〜」
那月が機嫌良く鼻歌を歌いながら、どんどん料理を完成させていく。音也はその間、その場を離れるタイミングを探すも、上手くいかない。
「沢山作ったので、音也くんも食べていってくださいね」
無邪気にそんなことを言われてしまえば、もうダメだった。
「う……うん」
音也は顔を引きつらせながら、何とか頷いた。
そうして、物体X並に怪しいのもが出来上がる。これを食べるのかと、翔と音也に絶望が拡がった。
「なっ……那月!紅茶を入れてくれっ」
翔が那月に懇願する。せめて美味しい飲み物でもあれば。そんな判断だった。
「そうですね。――あれ?これは何ですか?」
「あ……っ」
そこで那月が先ほど早乙女が置いていった薬に気が付いてしまった。曰く胃薬。けれど音也も翔も、那月にとても真実を言えない。
「そ――れは、……」
「さっきおっさんが置いていったんだよ。シロップ的な、ね。翔」
音也も自身が何を言っているのか、いまいちわからなかった。
「へ〜。じゃあ、紅茶に入れてみましょうか」
そうして謎の薬入り紅茶が用意されていく。
「今日は香り付けに少しブランデーを垂らしてみます」
一、二滴垂らされたアルコールが、紅茶の中へ溶け込んだ。
「さあ!翔ちゃん音也くん。出来上がりましたので、どうぞ召し上がってください」
並んだ紅茶とカップケーキに、音也と翔の喉がゴクリと鳴った。
「ほら、翔ちゃん」
カップケーキを掴んだ那月が、翔へにじり寄っていく。
音也は紅茶とカップケーキを見比べて、覚悟して紅茶の入ったカップを持ち上げた。早乙女の言葉が真実なら、紅茶には害がないはずだ。
二人同時に、それぞれカップケーキと紅茶を口に含む。
「う――ぐぅっ」
その途端、翔はもとより、音也まで倒れ込んでしまう。
「翔ちゃん?音也くん?」
そんな二人を那月が慌てて抱き留めた。
「大変!どうしましょうっ」
那月がオロオロしている所に、たまたまトキヤが通りかかった。
「四ノ宮さん。翔と音也はどうしたんですか?」
「翔ちゃんと音也くん。急に倒れちゃって……」
そんな那月の言葉に、サッと視線を走らせ状況を把握したトキヤは、二人の様子を確かめる。少し鼓動が早い気がするが、大丈夫そうだと判断して、トキヤは那月を見た。
「音也は私が運びますから、四ノ宮さんは翔を部屋に運んで寝かせてください」
トキヤは話しながら、常備薬の胃薬の残量を思い浮かべた。
「あとで翔の様子を見に、伺います」
「わかりました!」
那月の素直な返事に、トキヤは音也を肩に担ぎ上げる。
ずしりとした重さに、蹌踉めきそうになったところを踏ん張って、トキヤは何とか音也を寮部屋へ連れ帰った。
ベッドへ落とすように横たわらせ、トキヤは音也の様子をうかがう。少し呼吸が荒く、頬が上気している。その様子に眉を顰めながら、トキヤは先に翔の様子を確かめに行った。
「四ノ宮さん」
戻っているはずの那月に声をかけ、室内に入れてもらう。音也と一緒に気絶していた翔は、すでに目覚めて死にそうな顔色でベッドへ腰掛けていた。
「翔。大丈夫ですか」
尋ねてきたトキヤに、翔は「何とか……」と声を絞り出す。
「胃薬を持ってきました」
トキヤは翔に近づいて、那月に聞こえないように囁いた。
「サンキュ」
手を差し出してくる翔に、トキヤはその手の上に胃薬を載せてやる。
「音也は大丈夫か?」
こんなときでも友人の心配をする翔に、トキヤは内心くすっと笑ってしまう。
「少し呼吸が荒いようで、熱が出ないといいのですが……」
翔と異なる症状の音也に、トキヤの顔が心配で曇った。
「あいつ、学園長の作った薬を飲んで気絶したんだ」
翔の話しに、トキヤは驚いてしまう。てっきり那月の料理のせいだと思っていた。
「早乙女さんの薬、ですか……」
驚きすぎて、つい「早乙女さん」と言ってしまう。
「おう。紅茶に那月がそれをいれちまってな。あとブランデーを一、二滴垂らしてたから、気をつけてやってくれ」
「わかりました」
トキヤからは溜息しか出てこない。
「学園長は薬の効果はどういうものだと言っていましたか?」
「強力な胃薬らしいけど、音也も気絶したんだろ。本当のところは怪しいぜ」
「そうですね」
トキヤは早めに音也の様子を確かめようと、立ち上がる。
「四ノ宮さん。私は音也の看病をしに、部屋へ戻ります」
「わかりました。僕、何か差し入れでも持って行きましょうか?」
そんな恐ろしいことを言う那月に、トキヤはやんわりと返す。
「起きたらおかゆでも作って食べさせますので、お気持ちだけで結構です」
「そうですか」
「では、私はこれで」
トキヤは残念そうな那月を置いて、自室へ足早に戻った。
「音也……」
トキヤが部屋へ戻ると、音也が荒い息でベッドへ横になっていた。
「はあはあはあ」
頬は上気し、その様子は尋常でない。
「どうしました!?」
一瞬でも側を離れた自身に舌打ちしながら、トキヤは音也の様子を観察する。
そうすると、音也の性器が勃起していることに気が付いた。
「音也!」
肩を揺すると、うっすらと瞼が持ち上がる。
「ときや……っ」
その声は擦れて、欲望が滲み、音也は明らかに欲情している。
そのことを察して、トキヤは動揺する。
「トキヤ!」
ぎゅっと腕を掴まれ、トキヤは音也に引っ張られる。その拍子に、トキヤは音也の寝そべるベッドへ倒れ込んでしまった。
「ねえ……ごめん。我慢出来ない」
余裕のない音也の声が、トキヤを羽交い締めにした。
「おとや!」
トキヤが抗っても、どこからそんな力が出ているのか、音也はびくともしない。背後から音也に抱え込まれるように拘束され、耳元に音也の呼気が吹き掛かる。
「させて」
尻に押し付けられた音也のものは、臨戦態勢と言えるほど固く勃起していて、トキヤの心臓は痛いくらい音を立てた。
尻の狭間に、服の上からグリグリと、ペニスを押し付けられている。
これが音也以外のものだったら、トキヤは怖気が走っていただろう。でも、密かに心を寄せていた音也が相手で、トキヤも欲が出てしまう。このまま押し倒されてしまえば、音也と一夜の過ちといえども、関係を結べるのだ。
そのせいでほとんど抵抗らしい抵抗など出来ない。
音也の手がトキヤの腹に回って、ガチャガチャとベルトを外していく。しゅるっとベルトを引き抜かれてしまえば、あっと言う間に前をくつろげられて。
そのまま無理矢理ズボンと下着を引き摺り下ろされて、下半身が剥き出しになった。
いつの間に取り出していたのか、尻の狭間に音也の湿ったペニスの先端が滑っている。まだ窄まったアナルにグリッとそれを押し付けられて、トキヤはさっと顔色を変えた。
「音也!待ってくださっ」
さすがにそのまま突っ込まれてしまえば大惨事だ。
「クリーム、使ってください!」
音也のベッドサイドには、トキヤが以前押し付けた低刺激のハンドクリームが転がっている。トキヤはそれを引っつかんで、音也へ突きだした。
それを音也が受け取ってくれ、トキヤはほっと安堵の息を吐く。けれど安心するのは早かった。ドギースタイルをとらされて、尻だけを音也に引っ張られる。膝が肩幅に開いているせいで、普段秘された窄まりが、音也の視界に晒されいる。
少しだけ開いたそこに、クリームのチューブの先端をねじ込まれた。
「ひっ」
トキヤはその異物に喉を引きつらせる。
「――ッッッ」
音也の暴虐は止まらない。そのチューブをギュッと握り締める。飛び出してきたクリームは、トキヤのアナルの中へ押し込まれていった。
いつもは出すだけのそこを逆流してくるものに、トキヤはカチカチと奥歯を鳴らしてしまう。痛みはなくとも、気持ち悪さで顔色は悪い。
胃の中のものが逆流しそうな不快感に、トキヤはゆっくりと息を吐き出す。トキヤがそうやって落ち着こうとしている間にも、音也の行動はどんどん進んでいく。尻のあわいを割り開かれたと思ったら、アナルの中に人差し指を突き立てられている。
「ぅぅ……」
トキヤは咄嗟にシーツに顔を押し付け、漏れそうになった声を抑える。
グニグニと乱暴に動く指は、一本のお陰かアナルを傷付けてはいない。何度か抜き差しされ、ぐちょぐちょと音を立てながら前後左右に指を動かされると、アナルも指のサイズに馴染んでくる。
その間、何度か押し付けられた音也のペニスのお陰で、トキヤの真っ白な太股はテラテラと光っている。
「トキヤ――っ」
我慢が辛いのか、音也が何度も勃起したものをトキヤの脚に押し付けている。声も焦りが滲んでいる。
トキヤのアナルに少し余裕が出来たのを見計らって、音也がもう一本指を増やした。
「ぐぅ……」
トキヤは奥歯を噛み締める。指二本であれば、物理的に不可能ではないはずだ。けれどやはりそこに異物があるのは、違和感が凄い。
トキヤは逃げを打ちそうな自身を必死に戒めた。
たっぷりとひり出されたクリームが、ぐちょぐちょと音を立てている。
二本の指が抜き差しされ、前後左右に広げられる。トキヤのアナルは、そうされても切れることなく広がった。
広げたままの指を何度もズボズボと出し入れされ、トキヤはシーツを握り締めてただ耐えた。
きっと音也にアナルの中まで丸見えになっている。普段人前にさらさないそこを音也に見られて、シーツを握り締めていなければ、トキヤは羞恥で発狂してしまいそうだった。
そんな中、つぷんと指が抜かれる。
「トキヤ」
尻を左右に引っ張られながら掴まれて、アナルに音也のものが押し当てられた。いよいよだ。
トキヤはなるべく身体から力を抜くよう、深呼吸を繰り返す。
「――ぅぐっ」
それでも一番太い先端が挿入されると、呻き声が漏れてしまう。
アナルが限界まで拡げられ、音也のペニスが中へ挿入されている。無意識に排出しようと動き出す直腸に、トキヤはヒクヒクとアナルの縁を震わせた。
「――くっ」
音也が力を込めて、中へ挿ってくる。いくらトキヤの直腸が排出を促しても、音也のそれは挿ってくる。
ずんずんと挿ってくる太いものに、トキヤの膝は震えた。
「トキヤ――っ」
音也の声に余裕が一切ない。
名前を呼ばれたと思った瞬間、一気に音也のものが押し挿ってきた。
「――ッ」
トキヤは奥歯を噛み締めて、その衝撃に耐えた。
いっぱいいっぱいに広がったアナルは、辛うじて切れていない。
「あ……ちょうきもちいっ」
そんなトキヤの様子を他所に、音也は挿入の快感に浸っている。
「動かすね。トキヤ」
トキヤの返事など求めていない音也が、ガツガツと腰を前後に動かしはじめた。技工もなにもないそれは、さすがに快感を与えてはくれない。
アナルを音也の滾ったペニスで擦られ、トキヤはただ前後に揺すられるだけだ。
「ああ……ああ……」
音也は限界が近そうだ。トキヤの白いまろみを握り締め、何度も抜き差しし、下生えを擦りつけるように腰を押し付けている。
「ああ!――トキヤッ……イクよ。――ぅくぅぅ!!」
一際強く尻を掴んで、腰を押し付けてきた。その瞬間、中で音也のものが弾ける。
「――っひぃっ」
トキヤは中に熱いものをかけられて、引きつった音を漏らしてしまった。音也のだから許せるが、これが音也以外だったら絶対に許せないくらいの気持ち悪さだった。
中が濡れていく。
トキヤはぶるりと震えて、アナルをヒクヒクと動かした。
「ぅ……っ!トキヤ、それダメッ」
小さくなったと思った音也のものが、再度ドクリと力を持ち始める。
「え――まっ」
焦ったトキヤが止める暇もなく、音也のものは元のサイズに戻ってしまった。
そうなってはもうどうしようもない。音也はトキヤの様子に構わず、再度腰を振り始めてしまう。
「……ぅっぅっ」
一度中で射精されたお陰で奥まで濡れて、先ほど以上に抜き差しがスムーズに進む。
多少は要領を得たトキヤの協力もあってか、音也はもう一度瞬くまに絶頂を駆け上がっていった。
「トキヤっ」
抜かないまま、もう一度トキヤの奥で、音也が射精する。
ドクドクと腹の中へ溜まっていく音也の精液。トキヤの腹はそれを受け止められずに、アナルの縁からジワリと溢れている。白い粘液がトキヤの太股を伝って、シーツへ流れ落ちていった。
「ふぅ――ぅく」
トキヤは何とか息を吐いて、アナルを弛めようと努力を繰り返した。その甲斐あってか、アナルはジンジンと熱を持っているが、切れてはいない。
けれどそろそろ限界だった。
「おとや……」
トキヤは左頬をシーツに押し付けたまま、音也を振り返った。
ちょうどズルリと音也のものが抜かれていく瞬間と重なって。音也の吐き出したもので汚れたそれが、トキヤの視界に入った。
ドクンともう一度音也のものは力を持ち始めている。
「あ……」
どちらからともなく、口を開いていた。
動く気力のなかったトキヤは、身を捩って仰向けになる。そうして音也のものへ両手を伸ばした。
「これで我慢してください」
普段自身にするように、トキヤは強弱をつけて両手を動かし始めた。
「あ……っ」
音也から上擦った声が漏れる。
トキヤが下から音也を見上げていると、無意識なのか腰が揺れていた。水音を立てながら音也のペニスへ手淫を施し、トキヤは音也の反応を確かめる。
自分の愛撫で感じている音也は可愛い。
トキヤの手淫にも熱が入っていく。
「トキヤ!」
腰を突き出してきた音也に、トキヤは両手でペニスを包み込みながら、先端を指で挫った。
「――ぅ……んっっ!!」
もう一度音也が射精する。今度の射精では、トキヤの身体と両手が、音也の精液でドロドロに汚れてしまう。
「――ふ……」
三度の射精で満足したのか、仰け反っていた音也が脱力して、トキヤの横へどさっと倒れ込んできた。
「トキヤぁぁ」
その音也は、へにゃりと幸せそうに笑ったかと思えば、あっと言う間に寝入っている。
トキヤはそんな音也を呆然と見詰めてしまった。あまりに早い展開に、ついていけない。
何がどうしてこうなっているのか。
けれど、綺麗好きな性か、汚れた身体や両手をとりあえずどうにかしなければと思い至る。
トキヤはシーツに両手を突いて、ゆっくりと身体を起こした。
(後略)
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