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レースの魔法

「オーノーッ!!」
 校舎沿いを歩いていた一ノ瀬トキヤと一十木音也は、頭上から聞こえてきた声に、空を振り仰いだ。
――パシャン
 その途端、トキヤは水のようなものを頭から被ってしまう。
「オーマイゴッードッ!」
 校舎の二階の窓から、ムンクの叫びのような格好をした学園長の姿が覗いている。
 明らかに、どう考えても、液体の持ち主は学園長だった。
「ミスター一ノ瀬。だいじょーぶデスかー!」
 二階から飛び降りた学園長は、トキヤの両肩に手を置いて、その体を力一杯揺さぶった。
「……!」
 堪ったものでないのはトキヤだった。強烈な揺れに、現状を認識する間もなく、気を失ってしまう。
「が……学園長先生!ト……ットキヤ、気を失ってる!!」
 慌てて止めに入った音也に、学園長はハタと手を止めた。
「あ〜ソーリーソーリー」
 学園長の謝罪を聞くべきトキヤは、音也の腕の中でグッタリと意識を失っていた。
「とにかく、急いで寮に運びまショー」
 そうして、不自然なほど急ぐ学園長は、トキヤを肩に担ぎ走り出した。
「待ってよー!!」
 音也も慌ててその後を追いかける。
 
 
 寮に着いてから、学園長は手早く服を脱がせ、トキヤの濡れた体を拭いて、ベッドに寝かせた。
 そうして、脈拍などを細かく確認する早乙女の様子に、音也は不安になる。早乙女の行動は、単なる水を被ってしまった生徒への行動にはとても思えなかった。
「さっきの液体って何だったんですか?」
 早乙女が持っていたものだ。単なる水のはずがない。
「惚れ薬の失敗作デース」
 申し訳なさそうに早乙女が発した言葉に音也は驚いた。
「惚れ薬?って、あの惚れ薬?」
 音也はそんな薬が現実にあると思ってもみなかった。
「そうデース。バーッド。単なる惚れ薬ならよかったデス。でも、これは失敗作」
「……失敗作?」
 音也は心の中で膨れあがる嫌な予感に、早乙女の言葉を無意識に反復した。
「目を開けて初めて見た男性にラブラブしちゃう薬デース。そして、フォーリンラブの相手の好みの女性になりきっちゃいマス」
「ええー!!」
 音也は心底驚いた。
「女の子になりきっちゃうの!?」
 音也はその状況が想像出来なかった。
「あ、トキヤは男だし、効果はないよねッ」
 ハタと現実に立ち返る。
「ノンノン!愛に性別は関係ありまセーン……」
 音也はその言葉に一瞬呆然としてしまう。
「げ…解毒薬は!?」
 トキヤが目覚める前に何とかならないかと、音也は早乙女に詰め寄った。
「ありまセン。自然に効果が薄れるのを待つしかないデス」
「そんなッ!」
 音也は真っ青になる。
「だって、それじゃあ、トキヤはどうなっちゃうの……」
「効果はぜいぜい一週間デス。それまで、何とか乗り切ってくだサーイ」
「そ……そんな……」
 音也が呆然としている間に、「あとで必要なものは届けさせマース」という声とともに、早乙女は部屋から飛び立って行ってしまった。
 
 
「ぅ……ん」
「トキヤ!」
 聞こえてきた呻き声に、音也は心配からトキヤの顔を覗き込んでしまう。
「おと…や?」
 瞼が開き、トキヤの視界に最初に映ったのは、音也だった。
「大丈夫?気持ち悪くない?」
 ひたすらトキヤの体調を心配する音也は、『惚れ薬』の作用を忘れ去っていた。
「え……え」
 ポッと赤くなるトキヤの顔に、熱があるのではないかと音也はトキヤの額に手をやる。
「だ、大丈夫です!」
 そんな音也の行動に、トキヤの声は上擦っていた。
「本当?学園長先生の作った変な薬を浴びたんだから、ちょっとでもおかしいところがあったら、ちゃんと言ってよ?」
「おかしいところなんてありません。それより音也」
 トキヤは上体を起こして、自分の姿を確認した。
「なぜ私はこんな格好をしているのですか?」
「あ、上着とシャツがビチョビチョになったから……」
「違います」
 トキヤは音也の説明を遮った。
「なぜ私は男物の服など、着ているのですか?」
 その言葉に、音也の時間は止まった。
「え……」
「女性の私が、男子学生の制服を着ているなど、おかしいです」
 音也の耳にはトキヤの言葉が素通りしていった。
「ぇ……」
 音也は現状が理解出来なかった。
(さっき学園長は確か…)
『目を開けて初めて見た男性にラブラブしちゃう薬デース。そして、フォーリンラブの相手の好みの女性になりきっちゃいマス』
 『女性になりきっちゃいマス』その言葉が、音也の頭の中でリフレインする。
(トキヤ、自分が女の子だと思ってるの!?)
「あ……あの、トットキヤ?」
 音也の声が上擦る。
「トキヤの性別って……」
 音也は怖くて最後まで言えなかった。
「何を言っているんですか」
 何でそんな当たり前のことを聞くのかというトキヤの表情に、音也も安堵する。トキヤが「男性です」と言い切ることを、音也はまだ信じていた。
「女性ですよ」
 どこか遠くで、不協和音が響いている。
 音也はこれが現実だとは認めたくなかった。これからどうすればいいのか、途方に暮れるしかない。
 
 
(中略)
 
 
 トキヤはいつも同じ時間に目が覚める。
 眠い目を擦りながらベッドに腰掛けたトキヤは、自分の姿を確認して驚愕した。
「なッ!」
(なんで、私は下着姿なんですか!?)
 寝る前のことを思い浮かべる。けれど、勉強のために机に向かったのは覚えていても、それからの記憶がない。
 素肌に触れるシーツの感触が恨めしい。
(音也はッ)
 ハッと気がついて、反対側のベッドを確認すると、いつも通り太平楽な寝顔を晒した音也がいた。
 ベッドの下に転がっているスキニーパンツも視界に入る。
(きっと窮屈で、自分で脱いだんです。そうに違いありません)
 そう、トキヤは心の中で唱えた。それしか、信じたくなかった。音也に下着姿を見られたなんて、考えたくもない。乙女心は繊細なのだ。
 そうに違いないと自分に言い聞かせて、トキヤはシーツを剥ぎ取り、腰に巻いてバスルームへと向かった。
 制服に身を包み、身支度を調える。音也に寝乱れた姿など、見せたくない。薄化粧を施し、唇にはルージュを乗せる。
「完璧です」
 早乙女学園の女子の制服に身を包んだ自身の姿を確認し、トキヤは頷いた。
 
 
 授業中、音也はどことなく上の空だった。隣のSクラスのトキヤは大丈夫なのか。昨日のアレはばれてないのか。色んなことが心配で、授業なんて頭に入らない。
 そんな音也の様子に、昨日のことを知っている林檎も、強く怒れないのか、注意されることもない。
 授業が終わって短い休憩時間に毎回Sクラスに飛んで行き、始業開始ギリギリに席に着く音也に、仕方ないという表情をしていた。
「トキヤ!今日はまっすぐ帰るよねッ」
 ようやく一日のカリキュラムが終わり、トキヤの所に向かった音也が、トキヤに大声で問いかけた。いつもトキヤは放課後はレコーディングルームを借りて練習している。けれど、こんなときくらい、まっすぐ帰ってくれるだろうと、音也は思っていた。
「これから、レコーディングルームで練習です」
 そんな音也の願望など、トキヤに届かない。だって、今のトキヤにとって、現状が当たり前なのだ。心から自分が女の子だと思っているから、自分の一日が不自然だと思っても見ない。
「なんで!今日くらい部屋でゆっくりしようよ」
 一方音也は、トキヤが心配で仕方ない。なんせ、自分が女の子だと思い込んだトキヤは、女子生徒の制服を着て、白い生足を晒している。紺のハイソックスとのコントラストが、音也にはいけないもののように見える。その上、スカートの中は女の子の下着とか。男物と違う薄い下着が、どうしても心許なく思えた。
「なんでって……練習は毎日するものです」
「〜〜じゃあ、俺も付いていく!」
 ずいっと音也がトキヤに顔を近づけると、トキヤの顔が赤くなった。乙女心に疎い音也は、トキヤが音也の距離の近さに動揺しているなんて、思ってもみなかった。
 好きな人が近くにいて、動揺しない乙女はいない。
「勝手になさいッ」
 トキヤは恥ずかしがるように、音也から慌てて離れて、鞄を手に持って、レコーディングルームへ走り去った。
 
 
 トキヤは内心失敗したと項垂れる。狭いレコーディングルームは音也との距離も近い。ブースの外の音也の視線が痛い。その視線を浴びて、トキヤはそわそわと落ち着かなくなる。
「〜〜♪」
 一曲を歌い終わり、ヘッドフォンを外すと、ブースを隔てる扉が開けられた。
「どうしました?」
 練習用に借りた狭いブースは、人一人が立つので精一杯だ。音也の出現に一歩下がれば、背後は壁だった。
「トキヤ、俺もう……我慢出来ないよ……」
 壁に押しつけられて、目の前に迫った音也の顔に、トキヤは動揺する。
 音也の瞳は熱く揺らめき、トキヤを落ち着かなくさせる。
「ちょっとだけ、いいだろ?」
「やッ」
 そう言って、音也の節くれ立った掌が、スカートの中に潜り込んできて、トキヤは驚いてしまう。
「な……なにをッ!!」
 トキヤは赤面して音也の手を止めようとする。けれど、那月ほどでなくとも怪力な音也を阻めるはずもなく、トキヤは音也に下着の上から触れられてしまった。
「や……やめて、くださ!」
 トキヤはあまりの事に、恐怖で音也の腕の中、縮こまった。
 いくら好きな人だからって、これはない。恋人でもない相手に、許せることではなかった。
 それとも、こういうことを気軽に受け入れるような人間だと、音也に思われているのか。そうトキヤは思って、ギュッと目を瞑った。
「大丈夫、ちょっとだけだから……」
 耳元に聞こえる音也の声が興奮で荒い。
「気持ちいいだろ?」
 そう言って刺激される前は、確かに快感を運んでいた。心は拒否するのに、身体は音也を受け入れてしまう。
 下着の上からクルクルと撫でられ、軽いタッチで押すように刺激されると、膝に力が入らなくなる。自分でも、下着がジンワリと濡れいくのが分かって、羞恥で耳まで真っ赤になってしまう。
「このまま立ってられる?」
 そう言った音也は、いきなりしゃがんでしまう。何をするつもりか分からずに、快感でボンヤリする頭で、トキヤが眺めていると、スカートをまくり上げられてしまった。
「制服汚すと大変……んぉ」
「ひゃやあああ!」
 最後の方は、くぐもった声で聞き取れなかった。けれど、トキヤはそれどころではない。薄い布の上から、音也の口に自身のものを含まれて、膝が笑ってしまう。
「エッロー〜」
 音也の声も、トキヤの耳には届かない。
 音也は下着の上からチュウチュウとトキヤのものを吸い上げて、袋を揉み上げる。トキヤのものは、小さな下着の中で窮屈そうに起ち上がって、今にも飛び出してしまいそうだった。
 嫌だと思っても、直接的な刺激にトキヤの身体はあらがえない。音也からもたらされる快感に、譫言のように「嫌だ」と呟きながら、膝を震わせてトキヤは音也のされるがままになってしまった。
 トキヤをよがらせる音也は、ビショビショになってしまった下着を履かせたまま、トキヤを弄りまわす。
「ん!」
 袋を口に含んで転がされると、もう駄目だった。トキヤの内股は痙攣してイキそうな快感に逆らえない。
「や!やめッ!………いっちゃ!」
 トキヤはスカート越しに音也の頭を掴んで、嫌々と首を振った。
 けれど不埒な音也の指は、下着の間に潜り込んでくる。
「ひゃ……ぁあああ!」
 ずり下げられた下着から飛び出したトキヤのものを、音也が口に含んで吸い上げた瞬間、トキヤは達していた。
 音也がトキヤのものをゴクリと飲み込む音を聞きながら、トキヤは狭いレコーディングルームに座り込んでしまった。
 自分の身支度に構う余裕のないトキヤのスカートの裾は乱れて、いやらしいトキヤのものが立てた膝の隙間から覗いてしまっている。
「可愛かったよ」
 そう言って抱きしめる音也の声は、快感の余韻で呆然としているトキヤには届かない。
 
(後略)

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