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Noiseまじりの吐息2

−グラビア撮影編−

 私達は、ドラマのロケから戻って来ていた。残っていた数シーンの撮影も終わり、ようやくクランクアップを迎えた。そのタイミングで社長から呼び出しがかった。
「あ、トキヤも?」
 社長室の前でばったり音也と会う。
「貴方も呼ばれているのですか?」
 その事に、悪い予感が騒ぎ出す。
 アイドルの絶対恋愛禁止令。
 早乙女学園のように明言されてはいないが、暗黙の了解だった。しかも、男同士。誰からも祝福されるはずがない。
「失礼します」
 私が悩んでいるのに、能天気な音也は扉を開けてしまう。
「音也っA」
「?」
 わかっていない顔で振り返る音也に、私は頭が痛くなる。なぜ何の憂いもなく社長室の扉を開けられるのか。私は仕方なく音也の後に続く。
 緊張で握りしめた掌は汗を掻いている。けれど、表情には出さないよう、細心の注意を払う。
「ユーたち遅いデース!」
 指定時間丁度に訪れた私たちを、理不尽な声が迎えた。明らかに社長が待つのに飽きた様子だった。
「申し訳ありません」
 理不尽に感じても、社長の言うことは絶対だ。素直に謝罪する。感情に素直な音也は、頭を下げる私に、若干不満げだった。そういうところは相変わらず子供っぽい。
「ユーたちを呼んだのは、仕事の話デース!」
 音也と二人で、直接伝えられるその言葉に、どんな無理難題が飛び出すのか身構える。
「二人で明日からグラビア撮影に行って来て下サーイ」
「はい?」
 いきなりの突飛な話に、音也と二人で戸惑う。
「場所は、私の所有する南の島デス。必要な人員も現地で揃えていますから、心配いりまセーン」
 突然の指示だったが、所属タレントとして逆らえるはずもなく、諾の返事を返す。
 私は予定外の仕事に今後のスケジュールが気になって仕方ないのに、隣で音也は単純に喜んでいた。
「トキヤと二人の仕事ですか@しかもグラビアッ。楽しみぃ〜」
「詳しいことはマネージャーに確認して下サイ」
 言うだけ言って、既に違うことに興味が移ったのだろう。社長の視線が外された。
「分かりました。事務所に顔を出してみます」
 私は頭を下げ、音也と連れだって社長室を辞す。
「へへっAトキヤとグラビアってかなりひさしぶりだねっ!」
 音也が気楽に笑顔を浮かべて話しかけてくる。
「そうですね」
 ここ何年もそんな機会はなかった。音也と二人という部分には、単純に喜びと気恥ずかしさを感じる。
 急なスケジュールという点だけは、頭が痛いことに変わりないけれど。


「おはようございま〜す!」
「おはようございます」
 二人そろって、事務所へ顔を出す。お互いのマネージャーが在席しているか不安はあったが、タイミングがよかったらしい。上手く捕まえることが出来た。
「一ノ瀬さん!」
「音也!」
 二人のマネージャーが席を立ち駆け寄ってくる。
「丁度よかったです。今、連絡しようと」
「社長に呼ばれまして」
 マネージャーの用事も、明日からのスケジュールの件だろう。
「あぁ聞かれたんですね」
 私のマネージャーが穏やかに頷く。
「音也もか?」
「そうだよ」
 隣で音也のマネージャーも、音也に確認している。
「資料を用意しますので、あちらのブースで待っていて下さい」
 確かマネージャー二人は、キャリア的には私のマネージャーの方が上だった。だからだろう。私のマネージャーが主導権を握って会話を進めていく。
「音也」
 二人でブースに赴く。ここ何年か二人で行動することもなかった。そのせいか、事務所内から興味の視線を感じる。あえてそれに何か言うこともないと、さっさとパーティションの影に隠れる。
「どうぞ」
 音也のマネージャーが四人分のコーヒーを用意してくれた。
「ありがとうございます」
「サンキュッ」
 私は温かいコーヒーに口を付け、一息吐く。隣で音也が相変わらず、コーヒーにミルクと砂糖を入れている。
「お待たせしました」
 私のマネージャーが戻ってきて、私達はそれぞれに資料を受け取る。
「来年はお二人のデビュー十周年ですので、今年から企画を組んで行くことになりました」
 その言葉に、マネージャー達の努力が忍ばれる。
 この企画書も絶対に慌てて作成したのだろう。社長の鶴の一声に振り回される周囲に、他人事でないだけに同情する。
「十周年記念、トキヤと出来るんですかっ@」
 身を乗り出して聞く音也の背後に、しっぽが見える。
「ええ、どうせなら一緒にすま…やれば、さらに盛り上がるだろうと」
 一瞬「すませて」と聞こえた気がしたが…本音が見え隠れする。けれど、音也にはそんなこと関係ないのか、単純に喜んでいる。
「その第一弾として、雑誌のグラビアおよび、その反応をみて写真集を発売します」
「写真集ですか?」
「ええ。お二人は今まで出したことなかったので、ファンサービスも兼ねて、普段見せない顔なども載せる予定です」
 確かに、数ページの雑誌の撮影なら今までもあったが、本格的な写真集となると初めてだ。
「グラビア撮影のついでに、ファンクラブの会報用にも何枚か撮り下ろします」
 そこは予算をケチってるらしい。
「社長に明日からロケだって聞いたけど、どうするの?」
「スケジュールは往復も含めて三日間確保していますので、現地に着いたら、スタッフの指示に従って下さい。その辺りは社長が手配していらっしゃるので、詳細は現地に着いてからとなります」
 要するに、蓋を開けてみないことには、どうなるか分からないということか。
「コンセプトは『アダルティーでエキセントリックな感じ』らしいので、大人になったお二人の、普段とは違った一面を出していく形になると思います」
 いじらしいマネージャーの様子に、それ以上は突っ込まずに、大人しく企画書を受け取り、明日の集合時間の確認をする。
「事務所へ午前十一時にいらして下さい。衣装などは現地に用意していますので、私物だけご用意下さい。一応、ランドリーの設備もありますので、最低限あれば大丈夫です」
「分かりました。他に注意事項はありますか?」
「明日は、コンディションを整えていただいて、本格的な撮影は明後日となります」
「音也も遅刻だけはするなよ」
 音也のマネージャーが心配そうに言う。迎えに行こうかと確認するくらい、音也に信用がないのだろう。けれど、それを音也はキッパリと拒否していた。
「トキヤに起こしてもらうから大丈夫!」
 それはどういう意味ですか。別々の住まいの私が、どうやってあなたを起こすと?
 ほぼ私の家に入り浸り、今日も来る気満々の音也に、頭が痛くなる。
「音也。一ノ瀬さんに迷惑掛けたらいけないだろう」
 私達の関係を知らない音也のマネージャーが、音也に注意をする。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!」
 根拠のない音也の「大丈夫」に、思わず音也のマネージャーと一緒に頭を抱えてしまう。この調子でよく芸能界で十年もやってこられたものだ。いや、この調子だから、皆に可愛がられてやってこられたのか。
「とにかく、明日十一時に来ればいいんだよね!トキヤ、帰るよッ」
 音也に腕を引っ張られ、私はよろめきながらついて行く。
「お…音也ッ」
 あっけにとられる音也のマネージャーの視線が痛い。さらに、私のマネージャーの、何かを悟っている視線が恐怖を呼んだ。
 鼻歌を歌う音也に、エレベーターまで引っ張られ、私も箱の中に乗り込んだ。
「音也ッ!」
 私の怒りの声が通じたのか、音也が恐る恐る振り返る。
「トキヤ?」
「あなたは何を考えているんですか!」
「何って?」
 何も分かっていない表情に、さらに頭痛が酷くなる。
「何で、別々に暮らしているはずの私が、貴方を起こせるんですか?」
「一緒に住んでるじゃん」
「そ・れ・はっ!貴方が押しかけて来ているだけでしょうっ!」
 恋人同士になったのなら、その辺りは本来注意すべきことでしょう!それを、毎日毎日平気な顔をして、脳天気に顔を出すとは何事か。
「トキヤは嫌なの?」
 怒鳴った私をのぞき込み、音也が呟く。音也の頭と背後にしゅんとした耳としっぽが見える。
「い…嫌ではありませんけど、……他の人にばれたらどうなると思っているんですかッ」
 そう。事務所にばれたら、確実に別れが待っている。そうならないように必死な私の気持ちは、音也に伝わっていないのか。
「大丈夫だよ。俺がトキヤのことちゃんと守るから…」
 音也の言葉の途中で、エレベーターが目的階に到着してしまう。それこそ往来でこんな話を続ける訳にもいかず、話は一端保留になってしまう。
「トキヤは車?」
「いえ」
 出先から直接来た私は、足がなかった。
「俺、車だから一緒に帰ろう!」
 タクシーに乗ってもよかったが、結局音也は私の部屋へ来る気で。それなら二人で帰った方が、効率的だった。
「分かりました」
 私は渋々音也に付いて行く。


 安全運転で車がマンションの前に横付けされる。私だけエントランスの前で降ろし、音也用に新たに契約した駐車場へ、音也は車を走らせた。
 私は音也を待つことなく、エントランスを通過し部屋を目指す。どうせ音也は、いつの間にか奪われていた合い鍵で入って来るだろう。
「トキヤ〜置いていくなんて酷いよぉ〜」
 案の定、洗面台でうがいをしている私に、抱きついてくる。
「貴方もうがいをしなさい」
 コップとうがい液を手渡す。
「は〜い」
 それを口に含むのを見届け、クローゼットに足を向ける。急な宿泊のため、必要な物が揃っているか若干不安だった。
 スキンケア用品などを確認していると、音也も後を追ってきた。
「音也、貴方も準備なさい」
「は〜い」
 音也はいつの間にか持ち込んでいた大量の荷物の中から、数枚の服を選び出す。
 そして適当な鞄に詰めて、「終了〜」と立ち上がった。
 分かってはいたけれど、つい苛々してしまう。
 どうせ向こうは南国だから、服がTシャツ数枚なのはまだいい。けれど、それを皺にならないように入れるとか、気を遣って欲しかった。
 私は自分自身に、気にしない気にしないと念じて、見なかった振りをする。
 その間も、手を休めることなく動かす。
 服や下着もきちんと畳んで鞄に詰め、用意を終える。
「終わった?トキヤ」
 それを待っていたのだろう。音也が尋ねてくる。
 ふと窓を見ると、思ったより遅い時間だったようだ。もう、空が赤くなっていた。
「ええ。そろそろ夕食にしましょうか」
 当たり前にこんな言葉が出る程度に、音也との距離感は戻って来ていた。


 翌日。相変わらずシャイニング早乙女所有の南の島は異次元だった。通常では考えられない方法で移動をして、あっと言う間に私と音也は現地に立っていた。
 晴天が広がる中、私達は女性のカメラマンを紹介される。
「お二人のオフィシャルでは今まで観られなかった表情なども納めたいと思っていますので、よろしくお願いします!」
 溌剌とした女性だ。その性格に合う、若干色の抜かれた茶色の髪をポニーテールにし、ハーフパンツとTシャツと、軽快な格好だった。
「まずは、今日はお二人にはエステを受けていただいて、後はゆっくりして下さい。撮影は明日から始めます」
「エステッ@」
 何で?と音也が驚きの声を上げた。
「脱いでいただくつもりですからッ」
 全くの悪気を感じさせない表情で、さらっとカメラマンが言い切る。
「あ、ちゃんと事務所の許可は貰ってます。安心して下さい!」
 全く安心できないことを言わないでいただきたい。
 私は内心そう突っ込んでいた。
 HAYATOの頃からそういった仕事がなかった。それが、ここにきて。事務所の方針というより、社長の中で何があったのか不安が過ぎった。
「むぅう〜」
 私がそんなことを考えていると、隣から音也のうなり声が聞こえてきて、何事かと驚いた。
 トキヤの肌は俺だけのものなのにぃと言う呟きが聞こえてくる。
 私は思わず、「貴方、馬鹿ですか!」と怒鳴りたいのを押さえつけ、周囲に気づかれないように、音也の足を踏んだ。
「いたっ!」
 ギリッと私が睨んだら言いたいことが通じたのか、音也が大人しくなる。
「撮影用のコテージはこちらで、お二人の宿泊用にはこちらを使って下さい。エステシャンはこちらに待機していますので、荷物を置いたら向かってくださいね」
 簡易地図を指しながらの説明を頭に入れ、荷物を持ち上げる。
「明日は、十時くらいから撮影開始の予定です」
「わかりました。ほら、行きますよ」
 私はまだぐずぐずしている音也を力尽くで引っ張り、二人で宿泊用のコテージに向かった。


 私達は荷物を整理し、早速エステに向かう。
「エステって何するのかなぁ〜」
 普段、美容に無頓着な音也は、どんなことするのかと想像し楽しそうだ。
 しかし、どちらかというと、他人の手でそういった手入れをされることが苦手な私は、若干憂鬱だ。
「こんにちは〜」
 元気よく扉を開けた音也が、中に声を掛ける。
「いらっしゃいませ」
 二人の女性が笑顔で迎えてくれる。施術服を着ているので、彼女らが担当してくれるエステシャンだろう。
「よろしくお願いします」
 私は内心の緊張を悟られないように注意しながら、頭をさげる。
「じゃ、早速ですが下着以外を脱いで、こちらに寝そべってください」


「ぴかぴかだ〜」
 すったもんだの末、音也と二人エステから解放される。
 なぜか、音也以上に執拗に施術を施され、他人の掌に晒された私はもうクタクタだった。
 早めに夕食を取り、寝てしまおうと足早にコテージへ向かう。
「トキヤ、待ってよッ!」
 置いていった音也が小走りで追いかけてくる。
 そうして、疲れているにもかかわらず、コテージに着いた途端、音也に飛びかかられた。
「音也ッ!」
 私は音也に叱責の声を上げていた。
「っへへ…すべすべだぁ〜」
 私の肌は跡を残しやすい。明日の撮影に響いてはまずいと、弛めにしていたウエストの裾から、音也の手が進入してきた。
「ぅ……ッ」
 性的な意図のない接触のはずなのに、思わず声を漏らしてしまう。そのことに羞恥を感じ、顔に赤みが差すのがわかる。
「トキヤ?」
 それが音也にも伝わってしまったのだろう。さわりと掌が肌を滑っていく。
「敏感で可愛いね」
「は……ぁ」
 明日からの撮影に備えて、駄目だと理性は警鐘を鳴らすのに、快感に弱い身体は降伏してしまう。
「あ…おと、や」
 キュッと胸の頂を刺激され、腰から下の力が抜けてしまう。
「おっとッ」
 慌てて音也が支えてくれたため、転倒は免れたが、後は音也のされるがままだ。あっという間に音也に抱えられ、ベットの上に降ろされる。
「明日からの仕事が……」
 かろうじて残った理性で、音也を制止する。
「うん、わかっている」
 そういいながら、音也の不埒な手は、衣服に包まれた肌を暴いていく。
「酷くはしないよ」
 性急に脚を割り開かれ、普段目に触れないところを晒される。
「ぁ……」
 淫乱な私の身体は、これから与えられる刺激への期待で震える。きっと音也にも知られているだろう。若い頃に知った後ろの快感のせいで、前への刺激より後ろの刺激の方を好んでいることを。
「ぅ…っん」
 ペチャリと水音が響き渡った。
「あッ」
 音也の舌が丁寧にあわいを割り開いていく。
 全身が淡く色づき、視界は熱に浮かされたように曖昧だ。連日の肛虐によって、少しの刺激でそこは蕩けていく。
「ふふっ可愛い。もうすっかり俺のためのものだね」
 チュッと軽いリップ音を響かせながら音也の唇が離れていく。
 待ち望んだものを、自分から強請ってしまわないよう唇を引き結び、これから与えられるものを待つ。
「物欲しそうな目だね」
 いつもならさんざん焦らされ、求めるまで貰えないものが、ゆっくりと侵入してくる。
「あ――」
 それに全身が歓喜に騒ぎ出す。
「音也ッ」
「うん。俺はここにいるよ」
 音也を求めて空を切ってしまった腕を,優しく包まれる。優しい、穏やかなセックスが続く。
 私は音也に包み込まれるように抱かれ、現実が曖昧なまま、いつの間にか果てていた。


 チャプンと言う水音が響き渡る。
 私はいつの間にか意識を失っていたのだろう。背後から音也に抱かれ、二人で湯船に浸かっていた。
「お…とや?」
「いいよ、俺が全部してあげる」
 トロトロに意識の溶けた私は、その音也の声に安心して、また意識を手放してしまう。
(後略)

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